「たかが格付け、されど格付け」

国債と格付けのいびつな関係

欧州危機はまだ深化する(前編)

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2012年2月7日(火)

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 S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)には困った癖がある。“TGIF”(Thank God It's Friday.)と、大抵の事柄は笑って許してもらえそうな金曜日の、それも市場も閉まった後になってから、全世界を揺るがすような格付けアクションをさらっと公表するのだ。

 前回は8月だった(米国債格下げ)。今回は13日の金曜日であった。格下げされた欧州各国にとっては、とても笑っては済ませられない魔の日であったことだろう。特に、Aという記号を失ってしまったイタリアあたりにとっては。

お門違いの家宅捜索

 しかし、だからといって格付け会社を家宅捜索するのはお門違いというものだろう。相場操縦との名目であり、以前からの調査によるもので格下げと関係は無いとしているが、後追いで格下げを行ったフィッチ・レーティングスにも、格下げ後数日で同様に家宅捜索が入った。

 将来予測を公表すると警察が乗り込んでくるようでは、世の中でアナリストと名のつく職業は成り立たなくなってしまう。格下げ自体はおおかたの投資家にとっては既に織り込み済みである。それでもなお、メディアが大きく取り上げることもあり、相場に与える影響を懸念して週末に発表したのだろう。実は“困った癖”ではなく、配慮の結果だ。

 この“配慮”、実は難しい。格付け会社はどこも、格付け委員会が終了したら極力速やかにその結果を公表しなければならない。インサイダー取引を防ぐためだ。格付け会社内部はもちろんのこと(実際には、アナリストは格付け委員会を招集した後にインサイダー取引なんてしている余裕はないのだが)、公表前に結果を知ることになる発行体に関しても、無用の誤解を世間に与えてはならないので、時間の猶予は与えられない。

 日本の企業格付けなどでは、格下げの通知を受けた担当者が「役員に相談するから公表はちょっと待ってくれ」などと泣きつく光景に出会うこともあるが、残念ながら心を鬼にして断らなければならない。役員に相談しても結果は変わらないし、当の発行体にとってもインサイダーリスクが高まるだけのことだからである。

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著者プロフィール

松田 千恵子(まつだ・ちえこ)

首都大学東京大学院 社会科学研究科経営学専攻教授。1987年東京外国語大学外国語学部卒業。2001年仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院修了。日本長期信用銀行、ムーディーズジャパンを経て、コーポレイトディレクションおよびブーズアンドカン パニーにてパートナーを務める。2006年マトリックス株式会社設立。主な著書に『格付けはなぜ下がるのかーー大倒産時代の信用リスク入門』(日経BP社)、『国債・非常事態宣言』(朝日新書)



このコラムについて

たかが格付け、されど格付け

企業や国の信用を「格付け」する格付け会社。2008年のリーマン・ショック後の世界金融危機では、実際は“危ない”サブプライムローンといった証券化商品に高い格付けを付与していたことから、その存在意義や信頼性に疑問符が付くようになった。一方、欧州の債務危機や日本の財政赤字問題を考える際には、格付けの動向から目を離すことはできない。このコラムでは、格付けの存在意義と役割、そして格付けの仕組みについて考える。

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