「橘川幸夫の オレに言わせれば!」

「まとめサイト」が電子書籍に起こす革命

「著作権」という概念を変質させる可能性も

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2012年2月24日(金)

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 10年ほど前、日本の大手家電メーカーが「電子書籍」に取り組んだことがある。家電メーカーは自動車と並んで戦後の日本を大きく発展させた車輪の一つである。家電メーカーは、それまで肉体労働であった家事労働を代替する家電を生み出したり、若者たちを中心とした音楽や映像などの新しいカルチャーに対応したオーディオ機器を開発したりして、多くの人の支持を集め、新しいマーケットを創造した。

 しかし、社会が豊かになってくると、それらの商品は登場した時の衝撃が薄れ、新製品が少しも新しい感動を引き起こせなくなっていった。製造メーカーのビジネスモデルは製造して販売して終わりである。商品が成熟化してくると、メーカーごとの同等商品の価格競争がはじまり、やがて、それまで下請けに使っていたアジアの工場が技術力とノウハウを習得し、日本を追い上げてくるようになった。

家電メーカーが開発した電子書籍は敗退

 家電メーカーの中で危機感を持つ人たちは、製造メーカーの限界を感じていた。作りっぱなしではなく、販売後も定期的に収益があげられるような仕組みを模索しはじめていた。彼らのモデルになったのは、例えばプリンターやコピー複写機である。

 機器そのものは利益水準を極端に下げて販売し、トナーの販売で持続的な利益をあげる構造である。あるいは携帯キャリアの通話料課金システムのように、機器はタダで配って毎月の課金で安定的な収益をあげていく方法である。

 いろいろな家電メーカーの中に、そのような発想を持った人がいたし、家電におけるコンテンツビジネスの可能性を探る共同組織が生まれたりもした。パソコン勢力の拡大により、家電とパソコンの融合が始まるのは分かっていたから、パソコンメーカーもビル・ゲイツも、コンテンツの意味を語りだした。

 しかし、実際に、それを実現出来たのは、スティーブ・ジョブズだけであった。それは、彼が、本来、コンテンツの側の人間だったからだろう。家電を売るためにコンテンツを集めるのと、コンテンツを楽しむためにマシーンを開発してきた人間の違いである。

 パナソニックが「シグマブック」をソニーが「リブリエ」という電子書籍を開発していたのは、そういう時代背景があった。この二つのプロジェクトは、魅力あるコンテンツを提供することが出来ず、その予感すら与えることも出来ずに、日本国内では敗退した。

 開発の時期に、ある家電メーカーの電子書籍開発担当者と話をしていて、僕は「日本の出版事情は特殊だから、やめた方がよいですよ」と言った。すると彼は、僕が思いもしなかったことを語ったのである。

 「これから中国が急成長する。もし今の中国が高度成長を果たして現在の日本並の生活水準になって、日本並の義務教育が行われ、紙の教科書を配布すると世界の樹木の半分がなくなるんです」

 電子書籍を家電メーカーのコンテンツ追求の一貫だけだと思っていたので、この視点は軽い衝撃であった。電子書籍は電子教科書として、これからの世界には必要なのかも知れないと思った。

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著者プロフィール

橘川 幸夫(きつかわ・ゆきお)

デジタルメディア研究所代表。72年、音楽雑誌「ロッキングオン」創刊。78年、全面投稿雑誌「ポンプ」を創刊。その後も、さまざまな参加型メディア開発を行う。83年、定性調査を定量的に処理する「気分調査法」を開発。80年代後半より草の根BBSを主催、ニフティの「FMEDIA」のシスオペを勤める。主な著書に『一応族の反乱』、『生意気の構造』(ともに日本経済新聞社)、『21世紀企画書』(晶文社)、『インターネットは儲からない!』(日経BP社)、『暇つぶしの時代』(平凡社)『やきそばパンの逆襲』(河出書房新社)、『風のアジテーション』(角川書店)、『ドラマで泣いて、人生充実するのか、おまえ。』『希望の仕事術』(ともにバジリコ)、iPhone、iPadアプリ『深呼吸する言葉の森』(オンブック) ほか共著、編著、講演多数。Twitter「metakit



このコラムについて

橘川幸夫の オレに言わせれば!

地方の小さなビジネスから日本の官僚システムまで、あらゆるテーマについて自らの足を使って拾った、“誰も知らない話”を毎回展開する。ゆっくりと崩壊していくかに見える日本と、先が見えない閉塞感から、内に閉じこもりがちな企業やビジネスマンに檄を飛ばす。

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