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陸前高田、八木澤商店はよみがえる

「雇用を生み出し、人口流出を止める」

2012年3月12日(月)

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 かつての一関城下と今泉(陸前高田市)を結ぶ今泉街道。その中間に、摺沢(一関市大東町)という小さな集落がある。江戸時代、今泉街道の宿場町として栄えた集落は明治時代以降、養蚕業で発展した。だが、全国各地の宿場町と同様に、高度経済成長期を過ぎると徐々に賑わいを失う。妻入りの商家や土蔵以外に往時の繁栄を偲ばせるものは何もない。この寂れた町に、八木澤商店は居を移していた。

「陸前高田は全滅しました」

 瓦礫の山と化した陸前高田で、200年以上にわたって醤油や味噌を製造している八木澤商店。昔ながらの梃子絞りで作った「生揚醤油」や地元産の丸大豆を利用した「おらほの味噌」、生さんまをそのまま用いた缶詰の「黄金さんま」など、八木澤が作る「本物」は全国に根強いファンを持っている。だが、陸前高田を襲った大津波はなまこ壁の土蔵もろとも流し去った。

 「陸前高田は全滅しました。テレビの映像を見ましたが、私の家も、会社も、(かつて会長を務めた)水仙酒造もなくなりました。もう終わりです」。震災直後、東京出張で奇跡的に難を逃れた八木澤商店の河野和義氏(現会長)は、消え入りそうな声でそうつぶやいた。この時点では、家族や従業員の安否は不明。店の再建など頭にはなかっただろう。(関連記事『200年以上続く老舗社長が語る 「陸前高田も会社も無くなりました」』)。

 だが、震災から1年が経った今、八木澤商店は予想以上のピッチで再建を進めている。

 震災直後は陸前高田ドライビング・スクールに仮の事務所を置いていたが、昨年5月、摺沢にあった元縫製工場に営業所を移した。それにあわせて、原料や製造手法が八木澤商店に近い秋田県の醤油メーカーの醤油を仕入れ、八木澤ブランドでの販売を始めている。

 さらに、10月には政府のグループ補助金を活用して、一関市につゆやたれを製造する仮設工場を建設した。現在は一関市大原の廃校を取得し、醤油工場の設立に動いている。早ければ、今年8月のお盆明けにも仕込みを始めるという。

 震災前と比べて、売り上げは半分以下に落ちた。建築費の高騰や人手不足による工事の遅延といった誤算もある。それでも、摺沢の営業所には電話が鳴り響き、取引先や建築関係者が引きも切らない。マイナスからのスタートということを考えれば、着実に再建の歩を進めていると言える。

震災後も社員の雇用を守り続けた

 今の八木澤商店を眺めていると、企業の役割は何かということをつくづく思う。

 醤油づくりの火は消さない。その心意気で再建に挑む八木澤商店は、地元の雇用確保にも尽力してきた。震災後、再建のめどはまったく立っていなかったが、内定を与えていた2人の新入社員をそのまま採用した。今年も3人の新入社員が入社する予定だ。正直、雇用どころではなかったが、政府の雇用調整助成金を活用し、既存社員や新入社員の雇用を守った。

 「働くところがなければ、若い人は外に出て行ってしまう。家族や友人をなくした子供を、仕事がないという理由で外に出すべきではない」。9代目の河野通洋社長がこう語るように、住民や企業が流出してしまえば、陸前高田に未来はない。この地の復興を担うのは、地域に根を張る住民や企業。だから、河野社長は呼びかける。地元に雇用の場を作ろう、と。

 そして、地元の経営者仲間と新たなビジネスづくりを模索している。例えば、多収穫米による飼料づくりやバイオエタノール製造だ。

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「陸前高田、八木澤商店はよみがえる」の著者

篠原 匡

篠原 匡(しのはら・ただし)

ニューヨーク支局長

日経ビジネス記者、日経ビジネスクロスメディア編集長を経て2015年1月からニューヨーク支局長。建設・不動産、地域モノ、人物ルポなどが得意分野。趣味は家庭菜園と競艇、出張。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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