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「いきなりクラウン」ではダメ?

  • 加藤 修平

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2012年3月26日(月)

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 私事に近い話ではあるが、本日(3月26日)、発売となった日経ビジネスで「さらばデフレ消耗戦」という特集記事を担当した。取材では企業を訪問して各社それぞれの「デフレ脱却戦」を聞き、大学教授や民間エコノミストにデフレの処方箋を聞いてまわる。今のデフレがこのままで良いと考える人はほぼ、いない。それぞれの立場で、デフレに立ち向かい、より良い方向に行こうとしていることは良く分かった。

 取材にはいつも、驚きがある。今回、私が驚いたことの1つが、セイコーウオッチの販売する「グランドセイコー」の売れ行きだ。同社によると、2011年度は過去最高の販売数になりそうだとのこと。東日本大震災後、高額品がよく売れているとの報道は知っていたが、私のイメージは「販売が上向き」という程度のもの。過去最高というのは想像を超えていた。そしてさらに驚いたことが、担当者が教えてくれた次の事実である。

 「グランドセイコーの購入者のうち、20%弱は20代の方々です」

(写真:井上 健)

 2つの意味で「えっ?」と思った。まず、グランドセイコーを買うお金がどこから出てくるのかな?ということ。カタログを見ると価格は最も安いもので18万9000円。多くのモデルは30万~50万円ぐらいである。有名企業の若手社員でも、手取りの月給の2倍以上はするはずだ。時計が生活と娯楽のすべてだというなら話は別だが、少なくとも私は20代のとき、時計にウン十万円を払う気も、余裕もなかった。

「グランドセイコー」って、若い人が着けてもいいの?

 もう1つの理由は、私がアタマの固い人間であることを告白することになる。「父の前で、グランドセイコーなんて着けられない」と思ってしまうのである。私にとってこの時計のイメージは、少なくとも管理職にある人がその地位にふさわしい時計として着けるもの。私は「若輩者として、そんな時計を着けるとかえって、みっともない」と思うタイプだ。

 しかし、冷静に考えるとグランドセイコーを買う人は極めて合理的な判断をしている。仮に30万円の時計を買ったとして、10年使えば年3万円、月に2500円である。私が工房を見学した限りにおいては、月2500円では申し訳ないと思うくらい、職人が1つずつ丹念に作り上げていた。毎年のように新製品が発売される商品ではあるが、これだけの高級感があれば、10年たっても、色あせて見えるようなことはないだろう。

 トヨタ自動車の高級車ブランド、レクサスの取材でも同じ感覚に襲われた。まず、1月に発売された「GS」の試乗会に参加した。首都高速道路を少し走るだけの話だが、カーブが多く、合流が難しい首都高を乗ると、走りの良さは分かりやすい。カーブに入ってみると、まるで地面にぴったり付いたような感覚だ。全くブレない。加速も申し分ないし、もちろん、大画面のカーナビはとても見やすかった。カーナビを見なくても、速度や曲がる方向など最低限の情報は前面の窓ガラスに小さく映し出す機能まである。

 価格は1台510万~800万円。これだけ見ると、雲の上のクルマだ。試乗は試乗で終わらせるに限る。しかし、当たり前だが一括払いする必要はない。分割払いにするとどうなるか、レクサスのホームページで調べてみた。まず、車種をGSでは最も安価な「GS250」とする。頭金は100万円、60カ月払い、残価据え置き型とすると、月々2万3300円、ボーナス時17万6700円と出てきた。これでレクサスオーナーになれるなら、と思いたくなる価格だ。

 では、レクサスを買うかとなると、グランドセイコーと同じ、2番目の理由がひっかかる。「父より良いクルマに乗っていいものか?」ということだ。

 「いつかはクラウン」。高度経済成長期の消費行動を象徴するかのように語られたフレーズだ。会社に入って大衆車を買う。給料が上がり、地位が上がるに従って、クルマもランクアップしていく。そして最後は高級車クラウンに見合う地位につき、収入を得る。こんなストーリーが人生にあった。

 それから数十年。多くの人は今日より明日、明日よりあさっての方が幸せになれるように、と願いながら仕事をしてきた。ならば、「いつかはクラウン」ではなく、「いきなりクラウン」でも良さそうなものだ。しかも、買い方によっては特段の贅沢とも言えないだろう。かつてのクラウンにあたるレクサスを、月々2万円強の価格で持つことができるのだ。

 だが、私のこの記事を読んでくださる、私よりも年配の方々には、こう思う方がいることだろう。「自分にとっての『クラウン』を買った年齢より先に、息子が買うのは面白くない」と。息子や娘には幸せになって欲しい。しかし、自分の子どもたちは、自分が生きてきた時代に比べると甘やかされて生きてきたと感じている人もいるだろう。

 こうなると、世代間対立の話にもなってくる。今の若者の立場になってみると、自分たちは高齢者の年金を払い続け、高齢者が作った政府債務の尻拭いをしながら、十分な年金をもらえない可能性がある。

 将来に負担のツケを回さないためにも、年金支給額は今すぐに下げるべきだし、そもそも高齢者にも一定の負担を求める消費増税が必要なのではないか。こんな質問を厚生労働省で若手のキャリア官僚(少なくとも30代だったはず)にぶつけた時、ここでも驚くべきことを言われたことがある。

 「今の高齢者は戦争や、戦後の混乱で苦労してきた。進学したくとも、できなかった人だって多いでしょう。そんな人と比べると、私たちの世代は恵まれています。年金だってできる限り、負担すべきではないでしょうか」

 とても私と同世代とは思えないと感心したものだが、考えてみるとうなずかされる。私だって戦後の混乱期に生まれた父と比べたら、恵まれた環境で生きてきた。そして、私の小学生の娘は私よりも、もっと恵まれていると思う。娘はもっと苦労すべきだと思う自分すら、たまにいる。仮に娘が社会人となり、自分で貯金したお金で、「いきなりクラウン」のような買い物をしたら、それはおかしいことでも何でもないが、苦々しく思うことだろう。

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