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「絶世の美女」が待つ丸紅の役員フロア

企業コレクションのあるべき姿とは

2012年4月4日(水)

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 「虹だって15分も続いたら、見向きもしない」と語ったのは、ドイツの詩人ゲーテである。人間の「目」や「感性」は、慣れるのがとても早い。出逢ったときは心躍らせるような美貌の女性だったとしても、一緒に時間を過ごすに従って、そのドキドキ感は薄れてゆく。しかし、その場限り、わずか数分の出逢いだったとするならば、その記憶は「永遠」となるかもしれない。

 記者は職業上、様々な企業を取材して回る。そこで美女との一期一会の出逢いは少なくない。受付に座る女性や秘書たち。「企業の顔」はおしなべて美人揃いだ。取材のモチベーションはもちろん上がる。この、かりそめの出逢いは、大事だ。

 それは4年ほど前のこと。総合商社、丸紅の本社ビル役員フロアで待ち構えていた女性は、それはもう、目が釘付けになるほどの美しさだった。

 先に種明かしをするが、実は絵画の中の美女のことだ。イタリア・ルネッサンス期を代表する巨匠ボッティチェルリが描いた「美しきシモネッタの肖像」は、日本に存在すること自体が奇跡と呼ばれる「名画中の名画」だ。ボッティチェルリの油彩は国内ではこの1枚のみ。価値は計り知れないが、仮に市場に出た場合、一説には、100億円の値がつくとも言われる。ちなみにバブル期、安田火災海上保険(現損保ジャパン)が史上最高額で購入したファン・ゴッホの「ひまわり」は約53億円だった。

丸紅が保有するボッティチェルリの「美しきシモネッタの肖像」(1480-85年、テンペラ・板、65×44cm)

 しかしなぜ、この絵が美術館ではなく、丸紅の本社ビルにあるのか。丸紅は1960年代にアートビジネスに参入。偶然、この作品が巡ってきた時、シモネッタが着けているネックレスの玉の一部が昔の資料と比べてずれていることが判明、贋作騒動に発展する。最終的には真作と判明したが、騒動に巻き込まれた作品は1億5000万円という"破格"の安値で丸紅の手に渡った。その後、丸紅はオイルショックとロッキード事件の渦中に巻き込まれ、79年にアートビジネスから撤退している。そうして「美しきシモネッタの肖像」は役員フロアに残され、今日に至った。シモネッタは丸紅の悲喜こもごものドラマを見守り続けてきたのだろう。

 丸紅の役員室の「受付嬢」は紛れもなく、このシモネッタである。当時の丸紅の担当者によると、海外からの上客が同社を訪問する際には、この絵の前に通すという。すると、この絵を見るや「日本の丸紅でボッティチェルリの作品に出合えるとは!」と驚愕する欧州やアラブの客もいるとか。商談の上で、この美女の"ファーストインプレッション"がどれだけ効果を発揮するかは不明だが、企業ブランド価値を高めていることは間違いないようだ。

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「「絶世の美女」が待つ丸紅の役員フロア」の著者

鵜飼 秀徳

鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)

日経おとなのOFF副編集長、浄土宗僧侶

京都市景観市民会議委員(2016年)、佛教文化学会会員。 1974年生まれ。成城大学文芸学部卒業後、報知新聞社へ入社。2005年日経BP社に入社。日経ビジネス記者などを歴任。2016年4月より日経おとなのOFF副編集長。浄土宗僧侶の顔も持つ。正覚寺副住職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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