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「システム思考」の欠如が招いた原発事故

【第1回】有事に不可欠な思考のループを準備せよ

  • 木村 英紀

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[1/5ページ]

2012年5月11日(金)

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 日本のものつくりの素晴らしさをたたえる本は巷にあふれていた。3・11以後この論調は影をひそめたようである。震災と原発事故で日本の科学技術の力不足が誰の目にも明らかになったからと思われる。ものつくりの技術力が原発事故では十分発揮されず、ずるずると事態の悪化を招き、あげくの果てにアメリカやフランスの力に頼らざるを得なかったのは何故か? このような疑問を感じている読者は少なくないはずである。

 この疑問に答えるべき日頃饒舌な技術ジャーナリストや科学技術史の論客たちはおしなべて沈黙しておられるようである。私はこれまで日本の科学技術について、ものつくり礼賛とちょうど逆の位相から私見を述べてきた(『ものつくり敗戦』)。科学技術の主役は「ものつくり」から大きく転換し、その潮流変化に日本の科学技術は対応できていない、というのが私の分析であった。

「全体像を見る視点」を「システム思考」と捉える

 福島原発事故の発生以来1年を経過し、事故の実相が詳細に明らかになりつつある。はっきりしてきたのが、現場で厳しい環境の中で危険を冒して仕事を遂行した作業員や消防士、自衛官など多くの勇気ある人々が存在した反面、現場の苦闘を結びつけて実を結ばせるための東京の「司令部」がほとんど機能を果たせず、ある本の表現によれば「国家の中枢が機能不全に陥っていた」ことである。

 同じことが70年前にあった。太平洋戦争で顕著だった「精強な兵と無能な司令部」という対比である。国家の命運がかかるという点では共通している原発事故対応がそれを再現してしまった。私にはこのことが、要素技術の開発には強いがその成果をシステムとして統合して社会に生かすことの不得手な日本の科学技術の姿に重なるのである。

 昨年末に出された「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会中間報告」(以下「報告書」)は、資料編を加えると700ページを超える大作であるが、その末尾を3つの「小括」として締めくくっている。そのひとつが「全体像を見る視点の欠如」である。報告書に描かれている錯誤と蹉跌に満ちた事故対応のさまざまのディテールは、この視点から眺める時、ひとつの鮮やかな像を結ぶ。

 私は「全体像を見る視点」を「システム思考」と捉えたい。システム思考の欠如が今回の事故の重大化をもたらした。逆に、システム思考が理想的に作動していれば、事故は防げたか、あるいは少なくともあのような深刻なものとはならなかったはずである。このことを以下報告書をベースに検証してみたい。それを通じて、システム思考とは何か? それがどれほど重要であるか、を読者に理解していただくのが本稿の目的である。

コメント40件コメント/レビュー

「科学技術の現場に(中略)同質の問題と捉えていいと思う」と書いた者です。システムをどの切り口で捉えるかの問題だと思う。本論に対しては、各守備範囲を構成素として統合し系として成立させる(この役割はプロマネ等の名称がありますが)というレベルで、システム思考の欠如の問題があるのではないかと理解している。開発の現場でも、統合部署/役職の無計画に非常に困らされている。ミクロシステムが見えてもマクロシステムが見えない、或いはミクロ手法をそのままマクロに適用しようとするのが問題なのかも。(2012/05/28)

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「科学技術の現場に(中略)同質の問題と捉えていいと思う」と書いた者です。システムをどの切り口で捉えるかの問題だと思う。本論に対しては、各守備範囲を構成素として統合し系として成立させる(この役割はプロマネ等の名称がありますが)というレベルで、システム思考の欠如の問題があるのではないかと理解している。開発の現場でも、統合部署/役職の無計画に非常に困らされている。ミクロシステムが見えてもマクロシステムが見えない、或いはミクロ手法をそのままマクロに適用しようとするのが問題なのかも。(2012/05/28)

「科学技術の現場に同様の現象がある以上、同質の問題と捉えていいと思う」のコメントに対して、結局は役割の細分化の為に、各自自分の守備範囲のみの意見具申になる為に、連携部分やカバー範囲外に考慮漏れが多発するということだと思う。責任問題や他者の分野まで口を出す事を良しとしない文化も含めてね。これは果たしてシステム思考の問題なのだろうか?システム(系の意味)のシミュレーション(思考テスト?)のテストケースが不十分。後は万が一を想定して記述があれば、安全じゃないと叩く馬鹿が多いから想定しなかった事にする言霊志向もあるのだろう。その馬鹿に説明して一蹴出来るほどの体制もリテラシーも足りない。(2012/05/16)

「要素技術の開発には強いがその成果をシステムとして統合して社会に生かすことの不得手」内部告発の様な事は好きではないが、技術/製品開発のマイナーなループでもこの現象は見られるのが実態だ。幾つかのコメントに「管理の問題で科学技術の問題ではない」と指摘があるが、科学技術の現場に同様の現象がある以上、同質の問題と捉えていいと思う▼だが日本の技術水準の高低は、その切り口の水準を見るかで変わることは指摘しておきたい。問題は、極一部の企業/組織(JAXAは成功例が多い等)を除き、システム(系)として成立させる手腕(つまりシステム設計、制度設計の技術)が致命的に欠けることという点は断り書きした方がわかりやすかったのではないか▼何れにせよ筆者の指摘は非常に参考になった(2012/05/15)

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