(前回の中国での合弁で「過半出資だから安心」は禁物から読む)
これまで中国人と日本人の考え方の違いやそれを踏まえた資本提携のポイントなどについて述べてきた。今回は中国で事業をしていくうえで中国人従業員をどう処遇し、彼らのモチベーションを高めればいいのか。労務管理の失敗例を踏まえながらポイントを解説したい。
それでは、実際に労務管理上どのような問題が起きているのか。実例を見ていこう。最初のケースは労働契約の解除を巡るトラブルだ。
上司からの命令拒否は許されるか?
中国に進出している日本企業A社は、中国人従業員Bさんを事務員として雇用する労働契約を結んだ。契約期間は3年。しかし、雇用してから1年後にBさんと上司が口論になり、会社側は「上司の指示に従わない」という理由でBさんを解雇した。その措置に対してBさんは、「一方的に労働契約を解除された」という理由でA社を提訴した。
裁判の結果、勝ったのはBさんだった。会社側による労働契約の解除を、裁判所が“違法”と見なしたからである。中国では今、同様の労働契約を巡るトラブルが頻発している。当事者同士で決着せずに法廷に持ち込まれると、「中国人の雇用を守る」という観点から、企業側に厳しい判決が下ることが多い。
このケースで争点となったのは、Bさんが上司の指示に従わなかった点が“著しい業務違反”に相当するかどうかである。日本では大抵の場合、部下は上司の言ったことを最終的には黙って聞き入れるが、中国では部下が上司に意見するのは決して珍しいことではない。
こうした上下関係の違いを踏まえずに、日本から派遣されてきた上司が「指示に従わないなら辞めろ」と言ったことが、逆に“著しく不当な扱い”だと見なされたのだろう。
中国人は基本的に「無駄な仕事はしたくない」と思っている。たとえ上司の指示であっても、それを「無駄」と思えば、上司にはそう主張して従わない。本当にそれが意味のある仕事なら無駄でないことを理解してもらうよう上司は努めるべきである。
さらにこれも日本人の上司に限った話ではないが、中国人は“中国を知らない素人”から指図を受けることを嫌がる。特に日本人の管理職は、中国語が話せず、決断力に欠け、夜はカラオケで遊ぶだけの「小日本」と揶揄される(小日本は、「ちっぽけな日本人」といった意味の日本人に対する蔑称)。
こうした中国人の従業員とうまく付き合っていくには、まずは彼らが日本人とは異なる考えや見方の持ち主であることを理解する。そして、中国人に対して対等に接する姿勢や努力を見せる。こうした取り組みが中国人の心を動かし、その結果、彼らのマネジメントもやりやすくなる。結局重要なのは、信頼関係をどう構築するかなのだ。
中国に限らず、記事の半分はドイツでも起こりえることだと思いました。 どの国に進出するにせよ、その国の国民性や習慣は事前に把握しておくべきだと思います。(2012/06/13)