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「日銀も負けるな」と緩和競争に突入する愚

民間銀行の商品開発競争とその後の破滅を思い出せ

2012年10月9日(火)

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 市場では、世界各国が金融政策の「緩和競争時代」に入った、と言われている。欧州中央銀行(ECB)による無制限の国債購入は、市場から資金を吸い上げるいわゆる「不胎化」なので、これを金融政策あるいは緩和政策と呼ぶのにはかなりためらいがあるが、米連邦準備理事会(FRB)の無期限MBS購入(いわゆるQE3)は明らかに通貨増刷競争を先導する緩和作戦であり、英中銀も景気動向次第ではまだ国債購入を拡大させる方針のようだ。ユーロ圏の厳しい景気後退の中で、ECBもいずれ量的緩和へと向かう可能性なしとしない、

 2001年に量的緩和政策を「開発」し、世界の金融政策の先端を走った日銀は、金融危機の惨劇から抜け出せない欧米の中銀によるアグレッシブな戦闘態勢の中で、いまや後塵を拝している印象は拭えない。政治家や実業界そして経済学者らから、欧米に対抗してさらに緩和を拡大せよ、との雄叫びが上がる。昨今では、資産買い入れ基金の拡充に加えて日銀による外債購入を求める声も強まっている。

 筆者は経済学が専門でもないし、金融政策立案のプロでもないので、日銀が海外の中銀と競争するのが良いかどうか、理論的な答えは持っていない。激化する量的緩和競争に対して抱いているのは、市場経験者としての直感的な拒絶反応と、あるデジャブ(既視感)である。前者はひとまず置くとして、後者について少し述べておこう。もっとも、前者と後者を明確に区分することは、正直言うと難しい。

不毛の商品開発競争と似ている「緩和競争」

 なぜデジャブなのか。それは、日銀に対して「欧米の中銀に負けるな」とけしかける声は、筆者が1980~90年代に経営陣から「欧米の銀行に負けるな」と攻め立てられていた時期を髣髴させるからである。デリバティブズ全盛時代は、外資系の独擅場であった。日本勢も何とか食い下がったが、やはりこの市場では英米などの金融機関に一日の長がある。競争では満足できる実績が残せないままに、邦銀は国内の不良債権問題もあって海外市場から撤退し、「商品開発競争」から身を引くことになった。

 それから後のストーリーは周知の通りであろう。激化する金融商品開発競争はサブプライムローン問題を生み、リーマンショックを誘発して、金融市場は瓦解寸前となり、欧米の大手金融機関は政府支援によって救済された。あれから4年以上が経過した今でも、世界の金融危機はまだ収まった感じがしない。

 一方で日本の金融勢は、結果論ではあるが、無節操な金融商品開発から脱落したこともあって軽傷で終わった。評論家やメディアから「2~3周回遅れの経営」と揶揄されていた邦銀が、今世界の各市場で存在感を増している。実務界の中では、盲目的な欧米金融追随が命取りになることを痛感した人も、少なくなかったはずである。健全な競争は生産性を上げるが、不健康な競争には破滅が待っている。

 ボルカー元FRB議長は「金融業界の商品開発で最も優れたものはATMであった」と述べて、そんな商品開発競争の虚しさを告発した。スワップやオプションに対しては、もう少し高い評価をもらってもおかしくないとは思うが、同氏の金融開発への批判的発言に多少の真理が含まれていることは否定できない。そしてその批判対象は、民間金融の商品開発に止まらないように思える。

 ここ数年の中銀による「緩和競争」も、民間金融の不毛の競争と似たようなものなのかもしれない。財政政策で身動きがとれない中で金融政策に圧力が高まる風潮は、自己資本比率に縛られた中ではオフバランス取引で収益を、とデリバティブズを使った収益増強策への突撃を命じられたわれわれが感じたものと、やはりよく似ているのである。

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「「日銀も負けるな」と緩和競争に突入する愚」の著者

倉都 康行

倉都 康行(くらつ・やすゆき)

RPテック代表

1979年東京大学経済学部卒業後、東京銀行入行。東京、香港、ロンドンに勤務。バンカース・トラスト、チェース・マンハッタン銀行のマネージングディレクターを経て2001年RPテック株式会社を設立、代表取締役。立教大学経済学部兼任講師。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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