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長期雇用は必ず雇用の安定につながるのか

日本型雇用慣行について考える(その2)

2012年10月31日(水)

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 日本型雇用慣行の議論を続けよう。日本経済の再生を考えていくと、いろいろなところで日本型雇用慣行が障害になっていることに気づく。したがってこれを変えていくことが必要なのだが、多くの人はこれを変えるつもりはない。むしろ続けてほしいと思っている。このギャップが非常に大きいというのが私の言いたいことだ。

 このギャップを埋めるのは大変難しく、私自身はやや諦めかけているのだが、地道に説いていくしかないのであろう。前回は、なぜ日本型雇用慣行が強固に存続し続けているのかについて考え、多くの人がこれを変えたがらないという実態を紹介した。今回からは、なぜ変えなければならないのかという問題点の方を考えることにしよう。

なぜ日本型雇用慣行は評判が悪いのか

 前回見たように、日本では多くの人が「日本型雇用慣行は望ましい」と考えている。「日本の伝統に即したものだ」「日本型雇用慣行こそが日本の力の源泉だ」とまで言う人もいる。

 しかし私の見るところ、(少なくとも私の身の回りの)経済学者の間では、日本型雇用慣行、特に正社員の身分保障が強い長期雇用(いわゆる終身雇用)の評判は芳しくない。どうしてだろうか。私から見ると、これは極めて自然なことである。

 経済学の基本は市場メカニズムに沿った自由な行動が、資源の最適配分をもたらすということだ。雇用についても、労働が不足している分野では求人が増えて賃金が上がり、逆に余っている分野では失職者が出たり、賃金が引き下げられたりする。こうした中で、経済主体が自由に行動すれば、足りない分野(成長分野)に人が集まり、余った分野(衰退分野)からは人が出ていくことになる。こうして労働の需要と供給がスムーズに調節されることによって、労働力の最適配分が実現する。

 こういう言い方をすると、経済的効率だけを考えているように聞こえるかもしれないが、これは働く側にとっても望ましいことである。労働力の最適配分が実現することによって、働く人々は自分の能力に見合って最大限の報酬を得られるようになる。また、長期雇用が支配的だと、たまたま入った企業で職業生活を送り続けなければならない。その企業が自分にフィットしていれば理想的だが、「こんなはずではなかった。他の企業の方が良かった」と考えている人も多いはずだ。それでも同じ企業にとどまるのは、そうしないと失業してしまうからだ。つまり、「雇用の安定」を得るために日々の不満を抑えているということである。

 この「雇用の安定」ということが日本型長期雇用の最大のメリットとされるのだが、この点については、次の二点に留意してほしい。

 一つは、「同一企業が雇い続けるという長期雇用制度でないと雇用の安定は得られない」というわけではないし、「長期雇用制度であれば必ず雇用の安定が得られる」というわけでもないということだ。例えば、専門的なスキルを持っており、そのスキルの評価に応じて、複数の企業を移動していくということによっても雇用は安定する。日本的慣行では、「企業に沿って仕事の内容を変えながらキャリアアップしていく」のだが、「専門的スキルに沿って企業を変えながらキャリアアップしていく」というやり方で雇用の安定を図ることも可能なのだ。

 どちらも雇用は安定するので、どちらがいいとは言えないのだが、前者の日本型雇用安定システムは、特定の企業に強く依存している分だけリスクが大きいとも言える。当の企業の業績が悪化すると、リストラされる可能性があるし、倒産してしまったら一巻の終わりである。ましてや、産業・企業の浮沈が急テンポで進行する現代の経済では、後者の「専門スキル」依存型の方が雇用は安定するかもしれない。

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「長期雇用は必ず雇用の安定につながるのか」の著者

小峰 隆夫

小峰 隆夫(こみね・たかお)

法政大学大学院政策創造研究科教授

日本経済研究センター理事・研究顧問。1947年生まれ。69年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。2003年から同大学に移り、08年4月から現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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