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ハーバードを超える「仮想研究所」

米知財会社が発明家を引き付ける秘密

2012年12月12日(水)

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 東京・JR山手線の田町駅から徒歩1分。何の変哲もないビルの5階に、最近、大手メーカーなどを退職した元技術者たちが自らのアイデアを売り込みに訪ねてくる小さなオフィスがある。

 オフィスの主は、インテレクチュアル・ベンチャーズという会社。米マイクロソフトで要職を務めたネイサン・ミアボルド氏とエドワード・ジュング氏らが、2000年に米ワシントン州で共同創業したファンドの日本法人だ。

 インテレクチュアル・ベンチャーズは、同社が手がける特許ライセンス事業で知名度を高めた。この事業では、投資家から集めた資金で大学や企業などから新技術の特許を買い集め、それを大企業などにライセンスして収入を得る。ライセンス契約を結ぶ過程で、特許権侵害を巡る訴訟を起こすことも少なくない 。

パテント・トロールとは別の顔

 5000億円以上の運用資産を持つ同社は、これまでに約4万件の知的財産をポートフォリオとして構築し、韓国サムスン電子や米マイクロン・テクノロジーなど数々の大企業からライセンス収入を得ている。日本国内でも今年11月、オリンパスとの間の特許紛争で和解し、ライセンス供与に合意したと発表した。

 インテレクチュアル・ベンチャーズは、「ライセンス供与を受けることで、企業は競合他社からの特許訴訟に対する防衛手段を得ることができる」(同社)と説明する。半面、資金力に物を言わせて特許を買いあさり、企業に不当な要求を突きつける「パテント・トロール」と一部で見られているのも事実だ。

 しかし、冒頭のベテラン技術者たちの心を引き付けているのは、インテレクチャル・ベンチャーズが持つもう1つの「顔」の方である。

 同社は、買い集めた特許のライセンス事業(インベンション・インベストメント・ファンド、IIF)とは別に、2つの事業を手がけている。1つは、約120人の社内研究者を雇って新タイプの原子力発電所や、光や電波を屈折させる新材料などの開発に自前で取り組む「インベンション・サイエンス・ファンド(ISF)」。そしてもう1つが、自社が選定した研究開発テーマに対し世界中の研究者から発明アイデアを募り、その成果を企業に供与して収益を得る「インベンション・デベロップメント・ファンド(IDF)」だ。

 現在、世界中の有能な研究者が注目を寄せ始めているのがIDFである。同社がテーマの重要性や市場の発展性の観点から重点分野に設定した「次世代クラウド」「新材料・環境技術」「画期的医療機器」といった技術開発課題に対し、米カリフォルニア工科大学やインド工科大学、九州大学など世界の450研究機関と1万人以上の個人研究者が委託契約を結んで発明に取り組んでいる。

米トップ3校を超える発明件数

 驚くべきはその成果だ。同社エグゼクティブ・バイス・プレジデントでIDFを統括するクリス・アレグロ氏は、「IDFを開始した4年前からの発明や特許出願の累計件数は、ハーバード、スタンフォード、マサチューセッツ工科大学(MIT)の3校を足し合わせた件数を上回っている。発明を生み出す力では、100年以上の歴史を持つ各大学に肩を並べた」と話す。

「発明家の中には無名の研究者や大学生もいる」と話すインテレクチュアル・ベンチャーズのクリス・アレグロ氏

 インターネットを活用し、ある課題に対する解決策を世界中から募る――。これはいわゆる「オープンイノベーション」と呼ばれる考え方で、過去にも様々なビジネスモデルが考案されてきた。例えば、大手企業から受託した研究課題をウェブサイト上で不特定多数の研究者・技術者に公開し、アイデアを公募するベンチャー企業などが「画期的」と喧伝された時期もある。

 こうしたビジネスモデルは非常にシンプルで分かりやすく、ある意味でネット時代を象徴する発想だ。しかし半面、筆者には「そんなにうまく行くのだろうか」という疑問もあった。アイデアの対価として報酬を支払うとはいえ、単にネットに公開して待っているだけで画期的な解決策が集まってくるというのは、あまりにも理想主義的というか原理主義的というか、虫が良すぎるのではないかと思ったのだ。

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「ハーバードを超える「仮想研究所」」の著者

田中 深一郎

田中 深一郎(たなか・しんいちろう)

日経ビジネス記者

日経新聞科学技術部、証券部を経て、2012年4月より日経ビジネス記者。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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