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「買いは大好きだが売りは大嫌い」が失敗の原因

M&A 成功の5条件

  • 服部 暢達

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2013年2月20日(水)

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 企業の成長戦略の選択肢として欧米では古くからM&Aが定着している。それなりに成功例も多い。日本の場合1980年代のバブル期や2000年ごろのネットバブル期に続いて、2008年ごろから第三次海外買収ブームが起きているが、これまでの大型海外買収を見ると、失敗例が多い。

 古くは日本鉱業(現JXホールディングス)が1988年に米電解銅箔事業大手グールドを約14億ドルで買収したが、わずか6年後に同社を清算して約900億円の特損を計上した。またNTTコミュニケーションズは2000年に米国インターネット・サービス・プロバイダーのベリオを63億ドルで買収したが、2年以内に5000億円以上の特損を計上し、今やほとんどその痕跡を残していない。確かに失敗例が多いようだがこれはなぜだろうか。

M&Aの成功確率は50%くらい

 そもそもM&Aの成功確率はどのくらいか、というと実はこれは測定が困難である。なぜなら買ってしまえば買わなかった会社はもう存在しないので、厳密に比較することはできないからだ。だからこそM&Aがなくならないという逆説的意見もあるが、世界的にはM&Aの成功確率はおおむね50%ぐらいという理解が一般的だ。

 M&Aの結果を評価する学術的な手法としては、買収をした会社と似たような会社を探して、買った会社と買わなかった会社を長期的に比較するという手法もあるが、世の中にまったく同じ会社は存在しないのでこの手法には限界がある。

 また、調査が長期間にわたると買収以外のさまざまな環境変化や経営戦略が業績に影響してしまうので純粋にM&Aの成否を比較することにならないという問題もある。そこでM&Aに関する論文は短期CAR(累積超過収益)による比較が主流である。

 CARとは株式「β」()で補正した株価の動きを市場インデックスと比較して、買収発表後短期間に当該株式が市場インデックスに対してどの程度プラスあるいはマイナスの動きをしたかを累積して計算するというものだ。

※ 個別株価と市場の連動性を示す指標。個別株価の変動と市場インデックスの変動の共分散をインデックス変動の分散で割った値で、インデックスが1上昇した時に個別株価が統計的に0.8上昇するならβの値は0.8となる。

 この方法だと、結局その買収の発表を株式市場が短期的にどう評価したか、を測定したことになり、長期的な結果を直接評価することにはならないが、測定が容易なのと長期に見てもほかの要因の影響を排除できないのでこの手法が広く使われている。

売り手はノーリスク、買い手は高リスク

 多くの研究ではM&Aにおいて売り手はおおむね30%程度の株価上昇が観測され、買い手はおおむね±ゼロである。つまり株式市場は売り手の成功確率が100%で、買い手は50%程度と判断している、ということだ。

 これはある意味当たり前の結果である。なぜならM&Aでは企業を買収プレミアム(例えば30%程度)を支払って買収するので、売り手はその事業に対する投資を終了してプレミアムを受領して撤退する。たとえ損切りでもIRR(内部収益率)が確定するのでリスク(結果の変動)はゼロである。

 しかし同じ案件が買い手から見ると、100億円の会社を例えば130億円で買うので、これは30億円の負けから始める投資だ。一生懸命努力して30億円価値を高めても、人・物・金を投入して収益ゼロでは骨折り損になってしまう。M&Aは、売り手はノーリスク、買い手は高リスクというのが当たり前なのだ。従ってM&Aは買い一辺倒ではバランスを欠く。売りと買い双方をバランスよく実行して初めてビジネスポートフォリオの最適化が可能となる。

 しかし過去、日本企業はM&Aそのものは大好きでたくさん実行してきたが、主に買い案件ばかりで、売りもバランスよく実行してきた企業は日本にはほとんどない。日本人は、買いは大好きだが、売りは大嫌いなのだ。これが、日本企業がM&Aで失敗続きの1つの原因といえる。M&Aにおいて売りはノーリスクだが、売り案件を実行することで買い手の心情や交渉のポイントなどを学べる、そのように経験値を上げてからより難しい買い案件に入るべきなのだ。

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中谷 巌 「不識塾」塾長、一橋大学名誉教授