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青春の怒りとカネ

2013年2月28日(木)

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 30年以上もマンガ家をやってると(驚かないでください。やっているのです)積極的に思い出したくない、思い出して書いたところで、評判は落としても、本業の営業的にはあまり得にならない過去もある。

 マンガ家は、才野茂と満賀道雄がたくさん仕事を受けてしまったはいいが帰郷後に完成することが出来ず干されてしまったあのエピソードのようなトラウマを、誰しも心のまんが道袋に抱えているものなのだ。

 これは私の場合に限った話だが、思い出したくないのは、それが単に腹立たしい話だからではない。思い出した瞬間に「あああああ」と声に出して頭を掻きむしりたくなるような、自分の若気の至りや無知や思い上がりや愚行もまた、高田社長の筑肥訛りの甲高い声とともに漏れなくワンセットでついてくるからだ。

 あらゆることを笑いで相対化するのが信条のギャグマンガ家ではあるが、それでもなかなか重すぎて、うまくギャグに落とし込めない種類の若いころの愚行もある。ポール牧師匠だか誰だかがいったように「青春が美しいなんて誰にも言わせない」のだ。

 先週末のマンガ方面のTLで、ヤマザキマリさんが民放のバラエティ番組で「(配収58億円の)『テルマエ・ロマエ』の原作料は100万円」と発言したことが話題になった。ツイッター以外でも幾つかスレッドが出来ていたが、ご本人のこの発言に関するつぶやきは離日前のこの一言だけ。これもまた数多くリツイートされていた。マンガ方面に限らずとも、ツイッター全体でも目立つリツイート数だったと思う。
 
 この発言とそれをめぐる反応は、色んな側面から語ることができる。

 まず大きくは「作品は誰のものか」という古くからの命題がある。
 話を拡げれば、出版社や映画会社(実質テレビ局ですが)という矮小な単位でなく「描かれた作品は作者のものか読者のものか」といういつものテーマが姿を現す。

 人気作品の場合はしばしば後者の比重が大きくなる。
 「その作品にとって、もっとも幸福な終わりのタイミングで終われない悲劇」もそうだし、手塚治虫の自身による過去作の度重なる改変が批判されたり「ディレクターズ・カットに名作なし」と云われたりする。

 人はどうしても最初に接したものを親と思ってしまうものだ。アヒルの子もトムさんを親だと思うのである。まったく同時に二種類のバージョンが提示されれば冷静な比較判断が出来るかもしれないが、時間差で見たものは、たいてい最初の感動のほうが勝ってしまう。

 そういう既に描かれたものとの比較ならまだわかるが、ときに読者は勝手な妄想で組み立てた、自分にとって理想の「描かれていない話」と比較して作者にダメ出しを始めたりするので色々大変だ。かくいう私も、自分が描くときは前者の、読むときは後者の比重がつい大きくなるので、あまり大きなことはいえない。
 
 ちょっとテーマを拡げすぎた。
 哀しいかな多くの人が反応してしまうのは、やはり金銭関係の話だろう。
 
 「哀しいかな」と書いた。番組での発言と、さらに作者のツイートをよく読めば、作者の怒りや哀しみが金額の問題ではなく(私にいわせれば金額も大問題だなのだが)別の所にあるのは明白だ。

 具体的には、家族が映画のヒットで受けるあらぬ誤解であったり、(特定出版社ではない)日本のマンガ出版全体の馴れ合い的慣例であったりするのだが、どうも反応を見ているとその部分はなかなか理解されないようだ。

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「青春の怒りとカネ」の著者

とり・みき

とり・みき(とりみき)

マンガ家

熊本県出身。ギャグマンガをメインにしながら、エッセイコミックやストーリー物も手がける。94年『DAI-HONYA』98年『SF大将』で星雲賞、95年『遠くへいきたい』で文春漫画賞を受賞。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官