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時をかける踏切

2013年3月28日(木)

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 東横線渋谷駅と小田急線下北沢駅が、一週間の時間差を置いて、あいついでリニューアルした。

 旧駅最後の日と新駅最初の日には、渋谷も下北沢も驚くほどの人出があり、どちらも大変なことになっていた(ようだ)。この騒ぎで初めて「葬式鉄」なるひどい言葉も知ったが、集まった人達の中には、純粋に旧駅の施設や踏切に想い入れの深い人もたくさんいただろう。私の下北沢周辺の知人たちも、見送りと称して踏切近くの店で飲み会を開いていた。

 自分にとっても、渋谷と下北沢という二駅は、もっとも多く利用した駅であり、色々と感慨も想い出もある。両駅ともに、ストーリー物の題材にもしている。

 上京して最初に住んだのが、京王井の頭線・池ノ上と小田急線・東北沢からほぼ等距離の、現在の東大先端科学技術研究センター(当時は東大航空宇宙研究所)の隣にあった、風呂ナシ共同トイレ、電話も呼び出しのアパートだった。

 とくに学校名は伏せるが、私は京王線の明大前にある大学に通わねばならなかったので、単純に通学の便を考え、かつ渋谷にも新宿にも出やすいそのあたりに適当に居を決めたのだった。

 もちろん、その三駅から等しく急行で一駅(当時)の下北沢のほうが、もっと便利だったのだが、家賃を考えると最初からその街に住むのは無理だったので、一駅ずらした、というわけだ。

 やがて在学中の1979年に商業誌デビューをすると、翌年には念願の下北沢に引っ越した。

 念願の……といっても、先に述べたように交通の便が最大の理由だった。引っ越した後で「音楽と演劇の街」という属性に気づき、ずいぶんとその恩恵や影響は受けるのだが、最初からそうした環境にあこがれたわけではない。ともかく、こうして私は、以後80年代の10年間をこの街で暮らすことになる。それだけ、自分には住みやすく気に入った街であり、今につながる友人達ともここで知り合えた。

 下北沢時代に最初に住んだ部屋も、トイレはついたもののまだ風呂はなく、洗面器片手に銭湯に通っていた。タイトルを出したところでどのくらいの皆さんがおわかりになるか心もとないが『るんるんカンパニー』というマンガはこのアパートで描かれた。半月形の眼をしたおなじみの私の創作人物も、同じ下北沢の書店で働いていて、手が足りなくなると、ベタ塗りなどを手伝ってくれた。

 次の連載『クルクルくりん』を開始する前に、駅西口から歩いて5秒の、1階に白洋舎が入っているマンションに移った。下見をしたときにはまったく気にならなかったのだが、いざ暮らし始めてみると、すぐ眼の前の井の頭線の踏切の警報機の音がうるさくて、とくに早朝は騒音に悩まされた。それでも結局、下北沢を出るまでその部屋に住んでいたのは、物が増えて引っ越しが面倒臭かったのと、そういうものぐさな私には替えがたい電車の便のよさ、ゆえだった。

 とにかく渋谷で映画を観る程度なら、雨の日に傘を持たずに部屋を出ても、ほとんど濡れずに行って帰ってこれるのだ。

 70年代が新宿の時代だったとすれば、80年代はよくも悪くも西武セゾン文化に象徴される渋谷の時代だった。……ということとは、これまたあまり関係なく、渋谷の街の景観は、東京に住み始めた頃から好きだった。

 それは坂に囲まれた谷底の街、という地形が大きく作用している。

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「時をかける踏切」の著者

とり・みき

とり・みき(とりみき)

マンガ家

熊本県出身。ギャグマンガをメインにしながら、エッセイコミックやストーリー物も手がける。94年『DAI-HONYA』98年『SF大将』で星雲賞、95年『遠くへいきたい』で文春漫画賞を受賞。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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