本日、新連載「麻倉怜士のホンモノ探訪」を始める。ホンモノとはもちろん「本当の物」のことだが、あえてカタカナの「ホンモノ」としたことについては、いくつかの意味を含ませている。このコラムでは、「物」「人物」「プロジェクト」「イベント」……など、私の心の琴線に触れ、揺り動かした「ホンモノ」と太鼓判の押せるモノ、ヒト、コトをリポートする。成熟した現代社会において、グローバルなフィールドで戦っていかなければならない今、日本は「ホンモノ」を志向していくべきというテーゼを机上的に述べるつもりはない。あくまでも、フィールドワークを通じて展開する。
あるときは、テレビやデジカメなどのデジタル分野のスタッフが登場し、またある時は天才的なビジョナリーや時代を拓く思想家にインタビューし、私が感心した製品の開発物語を書いていく。さらに、時代を読み解くヒントがつかめるCESやIFAといった主要イベントでは、私的な切り口で詳細な報告を行う予定だ。
最初のテーマとして取り上げたのは「革新されたテレビの音」。嘆かわしいほどひどいテレビのスピーカーから発せられる音に対し、メーカーが本格的に改善のメスを入る兆しが見え始めた。それがホンモノかどうか、2回にわたって報告しよう。
初めて「音」を展示した米CESのソニーブース
例年1月に米ラスベガスで開催される「International CES(全米家電見本市)」には、毎回、通っているが、テレビの音でシアターが組まれたのは、20数回のCES行きで、私が知っている限り今年が初めてだった。これまで液晶テレビはあまりに音が悪いので、そもそも音を聴いてもらおうという発想など、あるはずがなかった。
それがソニーブースでの、新型4K×2Kテレビ「KD-65X9200(65型)」のシアターだ。長蛇の列ができていたが、我慢して並んで入った。
デモは、まずBD-ROMのコンサートライブから始まった。この歌手ならではの音量感と、剛性感、そして絶妙なニュアンス感が、なんとテレビのスピーカーから“聴けた”ことに驚いた。続いて最新007「スカイフォール」のオリジナル4K×2Kでの予告編が再生されたが、アクションシーンの連続でも音はへたらず、しっかりとした輪郭感とスピード感が聴けた。普通の液晶テレビではか細く、歪みっぽく、もたついているので、こんな明快な音には、ならない。
これほど良い音は、最近、テレビでは全く聴いたことがない。ここ数年、テレビの音は急速に悪化の一途をたどっていた。それでも5年ほど前までは、パイオニアの当時のプラズマテレビ「KURO」のように、しっかりとした外部スピーカーを備える薄型テレビも存在していた。しかしその後、世界的に勢力を増してきた韓国のサムスン電子とLG電子が、どんどん奥行きを薄く、フレームも薄くするものだから、市場競争の観点から、日本メーカーも追随しなければならなくなった。
その結果、スピーカーに与えるスペースが極端に小さくなり、ユニットは下を向き、音はますます貧弱になっていった。もこもこした、こもった音は最悪である。ユーザーの不満は音に集中する。ハイビジョンでせっかく画質が良くなったのに、音がものすごく悪くなったとの声は、市中にあふれている。
絵と音が一体となってのテレビだと思いますので、音の良さを追求することに同感です。普及価格帯でも、オーディオ専用機器ほどではなくとも、そこそこのよい音が必要です。実は、最近買った普及価格の国産テレビの音が、以前のテレビに比べて一段と貧弱で、安物のラジオのような音質でがっかりしています。今なら音の良さを訴えて、差別化できると思うのですが?(2013/04/24)