• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

「新興国にタイムマシン経営」はもう古い?

ジャカルタで会ったある青年の話

2013年5月9日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 午前中の柔らかな日差しというものは、ここにはない。朝起きて空を見上げれば、どこまでも底がないような青空に吸い込まれそうになる。まだ午前9時過ぎというのに銀色に輝く太陽は容赦を知らないようだ。肌をじりじりと焼き、地面にくっきりと黒々としたヒト形の影を描く。

 インドネシアの首都ジャカルタに滞在して数日間経ったある日、私はいつものように取材に出た。その日、1人のインドネシア人の青年と会う約束をしていた。あるジャカルタ在住の日本人に、「若いインドネシア人に会って話を聞きたい」と伝えたところ、青年の名を教えてくれた。起業家だと言う。正直に言えば、若い人たちのライフスタイルや考え方が知れればいいという程度の思いで申し込んだ取材だった。だがその出会いは、私のインドネシア観を大きく変えることになる。もしその青年と話を交わした数時間がなければ、私が「日経ビジネス」4月8日号に執筆した特集「インドネシア 覚醒する『未完の大国』」はまるで別のものになっていたはずだ。

 本題に入る前に、記者の職業余話を少々。記者にとって取材中に「気持ちのいい」瞬間はいくつかある。誰も知らない、でも多くの人が知りたがっている事実を誰よりも早く知った時。心を閉ざしていた取材先からようやく信頼を勝ち得て、その本心に触れた時。もちろんこれらの瞬間は気持ちがいいが、そうした瞬間を味わえることはそうあるものではない。

 一方で、どんな取材でも感じられる気持ちよさというものもある。例えば、取材前に予め立てた「仮説」に、取材先の言葉ががっちりと噛み合った時。「この取材先にこうぶつければ、こう返ってくるのではないか」という読みが当たると、話を聞きながら頭の中で考えがまとまっていく。その、頭の中でガシガシと原稿の構造が組み上がっていく感覚は快感としか言いようがない。そうした取材では、脳内に組み上がった構成にどんなパーツが不足するかを考え、そのエピソードを得るための質問を取材先にぶつける。取材を終えた時には、極端に言えば、もう頭のなかの原稿を書き写せばよいという状態になっている。

 だがそれを超える快感を感じるのが、取材先に「裏切られる」瞬間だ。いささか便利すぎて安易に使われすぎている言葉なので使うことにややためらいを感じるが、「いい意味で」裏切られる、と書いた方が正確だろうか。私ごときが取材前に思い至った浅はかな「仮説」を覆し、先入観をひっくり返すような、ものの見方の根本を覆すようなことを取材先が話し出した時、いつも心臓がえぐられるような思いがする。仮説の精度は、「経験」の多寡に、比例はしないまでも強い相関を持つ。仮説が破れるということは、記者としてそれまで培ってきた知見や見識が覆されることを意味する。それは当然ながら苦しい。だが同時に、腹の奥底からじわりと湧き上がるのを感じるのだ。「だから記者はやめられない」と。悔しさと苦さの奥に隠れるその甘美は、やはり快感と言っていいものだろう。

「記者の眼」のバックナンバー

一覧

「「新興国にタイムマシン経営」はもう古い?」の著者

池田 信太朗

池田 信太朗(いけだ・しんたろう)

日経ビジネスオンライン編集長

2000年に日経BP入社。2006年から『日経ビジネス』記者として、主に流通業界の取材に当たる。2012年『日経ビジネスDigital』のサービスを立ち上げて初代編集長、2012年9月から香港支局特派員、2015年1月から現職

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

テスラのような会社と一緒にできないのなら、パナソニックはイノベーションを起こせないだろう。

津賀 一宏 パナソニック社長