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一息ついて手を緩めたら後でしっぺ返しを食らいますよ

円安が企業にもたらす真の影響(第5回)

2013年6月24日(月)

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 企業のビジネスを巡って日々流れるニュースの中には、今後の企業経営を一変させる大きな潮流が潜んでいる。その可能性を秘めた時事的な話題を毎月1つテーマとして取り上げ、国内有数のビジネススクールの看板教授たちが読み解き、新たなビジネス潮流を導き出していく。

 今月のテーマは、安倍晋三政権が推進する経済政策「アベノミクス」によって急激に進んだ円安。企業の輸出が回復し、業績の回復や雇用の拡大につながるといった理由から、円安を歓迎する声も多いが、果たして本当にそうなのか。円安が国内企業にもたらす真の影響について、国内ビジネススクールの教壇に立つ4人の論客たちに持論を披露してもらう。

 今回から2回にわったって円安の真の影響を論じるのは、一橋大学大学院国際企業戦略研究科の名和高司教授。円安で製造業の一部は一息ついたが、ここで安心してしまうことを懸念。「海外シフトの手を緩めてはいけない」と強調する。

(構成は小林 佳代=ライター/エディター)

 昨年終わりから今年春までの急激な円安は、製造業の一部に一息つく余裕を与えました。息をつく間もなく、あまりにも極端な円高に突入していたことで、それらの製造業は疲弊していた。特に自動車、重機械などの業界で、国内にマザー工場を持つ企業や日本で部品を製造している企業は、円安になって助かった面はあるでしょう。

 逆に、同じ製造業でも生産拠点の海外シフトを相当に進めていた企業は、円安で痛い思いをしています。ODM(相手先ブランドによる設計製造)やファブレスで事業を進めてきた企業にとって、円安はデメリットでしかありません。製品のほとんどを台湾で生産しているパソコンメーカーの中には、6月に入って10%値上げするところが出てきました。食品メーカーや化学メーカーなど海外から輸入する原材料が多い企業にとっても、円安はコストアップ要因です。

 円安で潤っているのは、日本全体の2割ほどの企業に過ぎません。その潤っている企業というのが、自動車、重機械など日本の強さを象徴する産業の企業なので、「円安になって良かった」という評価が浸透しがちですが、全体で考えたらマイナスの影響の方が大きいのです。

アベノミクスへの対応でも異なる高齢富裕層と若年層

 円安になっていく局面では株価も上がり、資産の膨張効果で消費が拡大するという期待も生まれました。ただ、百貨店の人たちと話をしてみると、そう単純なものではないようです。どうやら、「2%のインフレ目標」を掲げるアベノミクスに対して、50代以上の富裕層と若年層の消費行動には大きな差があるようなのです。

 50代以上の富裕層はかつてのインフレの時代を知っています。モノの値段がどんどん高くなっていった1970年代、80年代を思い出し、「今買っておいた方がトクだ」という感覚になります。株を持っているような消費者は全体の10%程度でしょうが、株価上昇で資産が見かけ上、膨らんだことで、ちょっとぜいたくをしようという消費行動に戻りやすい。百貨店で貴金属やブランド品が売れたのは、こういう要因からです。

 一方、若年層はインフレを知らないので、ピンと来ていません。「今、買った方が1年後に買うよりもトクだ」という発想をしないため、できるだけ安くて良いモノを買おうとする消費行動は変わらないのです。結局、彼らの間ではあまり高いモノは売れていないそうです。

 可処分所得の多いシニア世代が、これまでは「先が分からないから」とタンスに寝かせていたお金を使い始めるようになるなら、富裕層をメーンターゲットとする百貨店のような業種には一定の効果があるかもしれません。ただ、「少しリッチになった気分」とか、「今、買わないと損」といった非常にメンタルなものに左右されているので、売れたとしても一時的な現象にとどまる可能性があります。

 「家電のエコポイント制度」でも問題とされたように、需要を先食いしているのかもしれません。5月後半以降の株価の乱高下で、消費者心理が再び冷え込む危険性もあります。高級品が売れ続けるとは思わない方がいいでしょう。

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「一息ついて手を緩めたら後でしっぺ返しを食らいますよ」の著者

名和 高司

名和 高司(なわ・たかし)

一橋大学大学院教授

1957年生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱商事に入社。90年米ハーバードビジネススクールでMBA(経営学修士)を収得。91年マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。2010年から現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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