カンボジア・プノンペンのカフェでたまっていたメールを処理していたら、フィギュアスケートの安藤美姫選手の出産のニュースが飛び込んできた。婚外子であろうとなかろうと、めでたいなあ、という程度の感想しか持たないでいたら、TwitterやFacebook経由で異変を知った。Yahooニュースのコメント欄が、ものすごい数の批判とそれを支持する人びとであふれかえっていたからだ。驚いたのが、「父親の名前を明かさないのであれば、批判されて当然だろう」といったコメントが大量の支持を集めていたことである。
ネットにおいては、「落ち度(落ち度と見なされたものを含む)」のある人を徹底的にたたく発言が相対的に多いのは前々から気になっていた。この事件の少し前には、問題行動がネットで炎上したことと(おそらく)関連して政治家が自殺するという事件もあった。当然に炎上に加担した人びとは罰されていない。海外でもこういった現象はよく起こるし、例えば隣の韓国でも掲示板はよく荒れる。
プノンペンのカフェでビールを飲みながら、なんでこんなことになるのだろうとぼんやりと考えていたら、やっと自分にとってしっくりくる理屈が見つかった。
結論から言うと、こういう状況になったのは、私たちが慣れ親しんできたコミュニティは行き過ぎたメンバーに対して制裁があることを前提に成立していたのに対し、ネットの匿名コミュニティにおいては同様の制裁システムが基本的に存在しないことにあるのではないか。サイトの運営者らが対策を講じるか、よほどの政治介入がされない限り、問題が改善されることはないだろう。
ネットの現象は、昔の噂話とお節介
私たちは、現在の日本のネット現象にすごく近いものを、少なくとも子どもの頃によく経験している。それは、近所のおじちゃん・おばちゃんの大好きだったうわさ話(井戸端会議)とお節介だ。
コミュニティの中で誰かが何かをしたら、それがあっという間に噂話や井戸端会議という情報伝播システムを通じてコミュニティメンバーに共有される。秘密は基本的に許されない。誰それがいいテレビを買っただとか、いいところに旅行に行ってきた、とかいった、一見するとどうでもいい情報まですぐに共有され、(時にそれは嫉妬混じりの)論評対象となる。
もしこのNBOのコメント欄も、投稿者の氏名、勤務先のみでも必須の記入項目にして公開することにしたら、さて一体どんな風に変わるでしょうか。(2013/07/15)