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企業戦略に振り回される技術者

私がホンダを去った理由

2013年8月8日(木)

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 7月に入り、電動車両に関する開発を強化する動きが相次いでいる。例えば、トヨタ自動車は研究開発費を増加する一方で、米フォード・モーターとのハイブリッド車に関する提携を解消。ホンダは自前主義を捨て、米ゼネラル・モーターズ(GM)と燃料電池車の開発に踏み切るもようだ。日産自動車も電気自動車の訴求力を高めて販売を強化していくという。

 自動車大手各社が電動車両の研究開発に注力するのはなぜか。今後、環境配慮型の「エコカー」が主流となっていく中で、主導権を握りたいからだろう。電動車両の分野で、世界に先駆けて先行してきた日本の自動車メーカーにはその資質が十分にある。

 一方で、本命技術を見極める段階には至っていない。化石燃料が枯渇するとみられる将来に向けて勝ち残る技術は、電気自動車か燃料電池車か。現時点では、両技術共に課題が多いため、勝敗を決めるのは時期尚早だ。だからこそ自動車大手各社は全方位的に開発を進めつつある。まさに新商品が離陸する直前のカオス状態といえるだろう。

 これら電動車両の核となる部品である電池開発を例に見ても、これまで長い開発の歴史があった。本コラムの第6回では、ホンダで電動車両向け電池の研究開発部門を立ち上げた話に少し触れたが、その詳細を紹介したい。

上司がナトリウム硫黄電池を主張

 車載用電池の研究開発部門を軌道に乗せて、成果を出すために最も重要なのが、開発に着手すべき技術の選択だ。車載用電池の候補には、繰り返し充放電可能な鉛電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、ナトリウム硫黄(NaS)電池が存在する。性能だけでなく量産コストなどを見据えたうえで、技術を選ぶ戦略が必要だ。研究開発戦略は論理が問われるもので、ホンダ用語である勘と経験と度胸のいわゆる「KKD」で選択できるものではない。

 筆者自身、1990年に研究に取りかかる際に、最も頭を悩ませ決断に苦労したのが電池技術の選択だった。開発目的は、1998年にカリフォルニア州で実施される電気自動車販売義務化の法規に電池開発を間に合わせること。筆者は数ある候補の中からニッケル水素電池を研究する道を選んだ。

 もちろん独断で決めたわけではない。筆者は「LPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)」を務めたが、研究開発戦略と実務推進に関わる上層部4人(役員研究員2人と取締役と常務それぞれ1人)と相談しながら進めていた。

 しかもホンダではニッケル水素電池の研究開発がすぐに始まったわけではなかった。他の組織では保険のため鉛電池の開発も進められようとしていた。さらに、基礎研究所の取締役がNaS電池を推していたのだ。フォードや独BMWがNaS電池の開発を加速させていたという背景もあったからだろう。

 確かに、NaS電池の性能は注目すべきレベルにはあったが、ある重大な欠点があった。「セパレーター」と呼ばれる正極と負極の2つの電極を隔離するための部材に、セラミック材料を使用する必要があったのだ。セラミック材料は分かりやすく言えば陶器のような焼き物。つまり、自動車のような激しい振動を伴えば焼き物に亀裂(クラック)が入ってしまい火災につながる恐れがあった。このため筆者は、「NaS電池は危険すぎるため、車載用電池としての開発に着手すべきではない」との主張を繰り返した。

 ニッケル水素電池を本命、鉛電池を保険に、一方のNaS電池は取締役をどうやって説得し開発しない方向にもっていこうかと考えていた1991年5月。筆者と取締役および開発メンバーの全5人は、イタリア・フィレンツェで開催された国際会議での講演に合わせて、NaS電池をBMWに供給していた独ABBを訪問した。意見交換すると共にNaS電池を搭載したBMW製試作車の電気自動車に試乗。完成度は高く実用化の可能性は感じたものの、信頼性に対する不安は解消されなかった。

 その後、350℃で作動するNaS電池の扱いの難しさ、安全性に対する懸念を整理し、ホンダ内では開発をしない方向で、但し、開発の進捗状況は随時監視をしていくことで取締役を説得し、開発テーマの絞り込みを図っていった。

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「企業戦略に振り回される技術者」の著者

佐藤 登

佐藤 登(さとう・のぼる)

名古屋大学客員教授

1978年、本田技研工業に入社、車体の腐食防食技術の開発に従事。90年に本田技術研究所の基礎研究部門へ異動、電気自動車用の電池開発部門を築く。2004年、サムスンSDI常務に就任。2013年から現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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