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過去の教訓を生かし、工夫することが必要です

クロスボーダーM&A成功の条件(第6回)

2013年8月28日(水)

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 企業のビジネスを巡って日々流れるニュースの中には、今後の企業経営を一変させる大きな潮流が潜んでいる。その可能性を秘めた時事的な話題を毎月1つテーマとして取り上げ、国内有数のビジネススクールの看板教授たちに読み解いていただき、新たなビジネス潮流を導き出してもらう。

 8月のテーマは、日本企業が海外の企業や事業を対象に実施する「クロスボーダーM&A(合併・買収)」。グローバル競争での勝ち残りを目指す日本企業にとって、海外展開を加速する有力な手段として、その重要性は高まっている。だが、これまでの事例では「失敗」と指摘されるものも多い。クロスボーダーM&Aをうまく行って成果を引き出すためのポイントは何か。国内ビジネススクールの教壇に立つ4人の論客がリレー形式で登場し、持論を披露する。

 最終回の今回も一橋大学大学院国際企業戦略研究科の伊藤友則教授が登場。過去の失敗の教訓を生かし、上手にM&Aを実施している企業の対応を教えてもらった。

(構成は小林佳代=エディター/ライター)

 前回、1990年代末~2000年代初めにかけてのIT(情報技術)バブルの頃、NTTグループはクロスボーダーM&A(買収・合併)に2兆5000億円も投じたものの、多くは失敗し、1兆5000億~2兆円ぐらいの損失を計上したと指摘しました。

 この時の教訓を生かし、その後、NTTは上手な買収を実施するようになっています。

 2010年、NTTグループは約21億ポンド(発表時の予想価格は2860億円)で南アフリカのITサービス大手ディメンション・データを買収しています。その陣頭指揮を執ったのが、当時、副社長だった鵜浦博夫NTT社長です。過去のM&A失敗事例を研究し、同じ轍を踏まないように努めました。

 核ととらえたのが「人材」です。

 過去にNTTグループが買収した企業では、買収後、優秀な人材が流出する事態が起きていました。2000年にNTTコミュニケーションズが買収した米ベリオが典型例で、中核となるべき人材がみな退社してしまい、うまくいかなくなってしまったそうです。

 買収後に優秀な人材を残すにはどうしたらいいか。NTTは経営陣がカギになると考えました。買収先企業の経営陣に、信頼できる人がいるか、買収後も経営を任せることができるか。その点に着目したうえで買収先を探し、交渉を行ったのです。

 NTTがディメンション・データのキーマンと判断したのはジェレミー・オルド会長。オルド会長自身は会社を売却後は引退する心づもりだったそうですが、鵜浦社長は「あなたが残らないのならば買収しませんよ」と説き伏せ、現在に至るまで、経営を任せています。

 その結果、M&Aから3年たった今も最高経営責任者(CEO)、最高財務責任者(CFO)ら主要幹部がみな経営陣に残っています。彼らはディメンション・データの経営を担うだけでなく、NTTグループの海外における戦略的活動についても積極的に関わっています。NTTは買収先の企業の人材を活用し、任せながらシナジーを生み出そうとしているのです。

 かつてはクロスボーダーM&Aで大失敗をしたけれど、それに屈せず、無駄にせず、新たな取り組みにチャレンジしたタフさは、ほかの企業も見習うべきところがあります。

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「過去の教訓を生かし、工夫することが必要です」の著者

伊藤 友則

伊藤 友則(いとう・とものり)

一橋大学大学院教授

1979年東京大学経済学部卒業、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。84年米ハーバード大学でMBA(経営学修士)を取得。スイス・ユニオン銀行(現・UBS)東京支店長などを経て2012年から現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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