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我ら怪獣とかく戦えり

2013年9月19日(木)

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 台風18号の被害に遭われた方々、お見舞い申し上げます。

 いや、重々わかっている。上の見舞い文は我ながらあまりにふだんの自分のキャラに似つかわしくない。五輪のプレゼンと一緒で、付け焼き刃感と心のこもらなさが透けて見えるようで、どうにも痛々しい(などと自分に使ってはいかん)。

 だが、こう見えても私も水害で被災した経験がある。
 こう見えてもの使い方もまちがっているが。

 1965年7月に熊本県南部を襲った集中豪雨で、人吉市内を流れる球磨川及び各支流が増水、我が家は一階が天井まで水に浸かった。市街地の約2/3が浸水する、同地域ではいまだに戦後最大規模の水害だった

 当時の我が家は球磨川とその支流の胸川が合流するあたりの川っぺりに建っていた。といっても持ち家でなく古い木造の借家であったが、家の裏の石垣の合間の石段を降りていくとすぐ川沿いの遊歩道に出るという、川遊びが好きな子供にとっては理想的な環境だった。

 あいにく私はアウトドアライフを満喫するような子供でなくて、もっぱらインマイルームで絵ばかり描いていたが、それは、合流地点の水質が当時はあまりよくなかったせいもある。高度成長期でいろんなものが垂れ流しだった。それでも平たい石で水切りなどをしに、ときどき水際まで降りて遊んでいた。

 九州南部というのは、毎年のように水害や土砂災害が起こる地域であった。
 雨が続き、川が増水すると、まず遊歩道が浸かる。

 やがて家の廊下から見ていると、石段を一段ずつ水位が上がってくる。一段上がるごとに水の色は茶色く濁っていく。

 だから豪雨があると、廊下へ「見えている石段の数を数えにいく」回数が頻繁になる。上から3段から4段くらいまで水位が上がることはしょっちゅうで、川に面した窓から顔を出すと、家のすぐ下を大量の濁流が、木材や建築物の一部や、ときには巨石や家畜の馬などを巻き込んでものすごい速度で流れていた。球磨川は日本三急流のひとつであり、茶色い奔流を眺めているのはちょっとしたスペクタクルだった。「川の様子を見に行く」人たちのことをまったく批難できない。

 窓からそれを見ていられた、というのは現在のような事前の避難勧告はろくに出ていなかった、ということだろう。実際、水位が石段のいちばん上まで到達することは、それまでなく、住民も自治体も、夏から秋の風物詩として甘く見ていたところがあったかもしれない。

 だが、その朝は違った。

 まだ暗い夜明け前の時間帯に私はたたき起こされた。
 気がつくと自分の布団が敷かれていた畳がぷかぷか浮き始めている。

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「我ら怪獣とかく戦えり」の著者

とり・みき

とり・みき(とりみき)

マンガ家

熊本県出身。ギャグマンガをメインにしながら、エッセイコミックやストーリー物も手がける。94年『DAI-HONYA』98年『SF大将』で星雲賞、95年『遠くへいきたい』で文春漫画賞を受賞。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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