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できすぎのナポリタン

2013年9月26日(木)

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 ミュンヘン乗り換えのルフトハンザがナポリ空港に降り立ったのは夜の9時過ぎだった。着陸寸前の窓からは、世界三大夜景の背後にうっすらと浮かび上がるヴェスビオのシルエットが見えた。そんなことは全然期待していなかったので、それはちょっとしたナポリの歓迎にも思えた。

 そもそも「世界三大」ほど怪しいものはないのだが、夜景は確かに美しかった。だが、遠くから眺めていればたいていのものは美しく見えるものだ。

 かつて「この地を見て死ね」といわれたイタリアの、まさにパブリックイメージを代表するような美都は、近年、その治安の悪さと、街に散乱する大量のゴミによって人気が凋落している。

 二つは無関係ではない。ナポリのゴミ回収業はカモッラと呼ばれるマフィアによって牛耳られており、ゴミ利権に絡むストライキから、しばしば街はゴミだらけになってしまうのだ。ナポリ郊外はモッツァレラチーズの名産地だが、その水牛の牧場が産業廃棄物で汚染され問題になったこともある。

 イタリア大好き日本女性達も、その興味の対象、渡航先のほとんどは北イタリアに集中しているようだ。ガイドブックも北の各都市に比べて南伊のそれは少ないし、何度もイタリアに通っているさる女性マンガ家は「イタリアはだんぜん北。南は見るものがなくてつまらない」とまで語っていた。南伊だけで考えても、近年はアマルフィやアルベルベッロに人気を奪われてしまっている始末だ。

 いや、日本人だけにも限らない。半年前のボローニャのイベントでお世話になった北イタリア在住の、日本語ペラペラのイタリア人通訳も「ナポリは怖い。正直あまり行きたくない」と話していた。北伊のインテリ層にとっても、ナポリは既にそういうイメージの街になっているようだ。

 私は最初に行ったイタリアがシチリアだったので、まあ日本でいえば沖縄に渡ったようなものだが、印象は全然悪くなく南伊への偏見もない。しかしゴミ問題のニュースは以前から耳に入っており、しかも渡航前に、まったく偶然にWOWOWでマッテオ・ガローネの「ゴモラ」を見てしまった。

 大阪城を壊したあの尻尾の大きい怪獣……ではない(そんなに毎回毎回怪獣を引き合いに出さなくてもいいが)。

 旧約聖書に登場する滅びの都市、ソドムとゴモラのゴモラだ。

 ナポリを(カモッラにひっかけて)ゴモラに例えた、カンヌ映画祭の審査員特別賞を受賞した3時間強の作品で、原作の『死都ゴモラ』を著したロベルト・サヴィアーノはカモッラに殺人予告を受け、現在も居場所を明らかにしていないらしい。

 本物のカモリスタも出演しているというその映画は、セミ・ドキュメント・タッチでリアルに怖かった。産業廃棄物と死体を運ぶブルドーザーが強く印象に残り、とてもお気楽にナポリに取材に行く心持ちではなくなった。

 こんな怖い想いを一人でしょいこんでおくわけにはいかない。
 私は同行する担当編集者に連絡した。

「ところでゴモラは見ましたか」
「見てません」
「いますぐ見なさい」

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「できすぎのナポリタン」の著者

とり・みき

とり・みき(とりみき)

マンガ家

熊本県出身。ギャグマンガをメインにしながら、エッセイコミックやストーリー物も手がける。94年『DAI-HONYA』98年『SF大将』で星雲賞、95年『遠くへいきたい』で文春漫画賞を受賞。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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