企業のビジネスを巡って日々流れるニュースの中には、今後の企業経営を一変させる大きな潮流が潜んでいる。その可能性を秘めた時事的な話題を毎月1つテーマとして取り上げ、国内有数のビジネススクールの看板教授たちに読み解いていただき、新たなビジネス潮流を導き出してもらう。
10月のテーマは「グローバル化の誤解を正す」。多くの日本企業がいま、少子高齢化による人口の減少などで縮小し続ける国内市場に安住せず、海外市場に打って出て成長の機会をとらえようとしている。そのために、グローバル人材育成など「グローバル」と銘打った様々な施策に取り組んでいるが、中にはグローバル化の本質を見誤り、成果を上げられていないケースも少なくないようだ。
そこで真に求められるグローバル化とはどのようなものなのか。そのために本当に取り組むべき施策は何か。国内ビジネススクールの教壇に立つ4人の論客に、リレー形式で登場し、持論を披露してもらう。
今回に登場するのは、一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)のジェスパー・エドマン専任講師(アシスタント・プロフェッサー)。ストックホルム商科大学欧州日本研究所の東京事務所ディレクターなどを歴任し、ドイツ証券の東京支店で証券アナリストとしても働く知日派の研究者だ。同氏は、日本企業に特有の問題点を指摘しながら、日本企業が真にグローバル企業になるために必要な取り組みを解説する。
(構成は中野目純一=日経ビジネス副編集長)
楽天やファーストリテイリングが英語の社内公用語化を実施して、グローバル化するためには英語を話す人が不可欠という、ともすれば誤解を招きかねない見方が広がっているようです。
確かに英語を話せることが必要ですが、グローバル化するために最も必要なのはグローバルな思考様式(マインドセット)を持つ人を増やすことです。
日本企業に限らず、ほかの国の企業にも言えることですが、グローバル化するためには、「我々は日本企業である」という認識から脱却して、「我々は日本企業ではない。グローバル企業である」という認識を持たなければなりません。日本的な特色は維持しても、「日本の企業である」という意識は捨て去らなければならない。
インドでの学習経験を生かしたGE
日本企業にとっては、日本企業であるという認識から脱却することは、日本企業の特徴とされる効率性の追求に偏重した姿勢を改めることにもつながるので、その点でも重要でしょう。
今日のグローバル競争では、効率性を追求して高い品質の製品を低価格で提供できるようにすることだけでは勝ち抜けません。イノベーションを起こし続けることが必要です。このイノベーションを起こすためには海外市場を実際に見て、学習することが求められます。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)を例に取って説明しましょう。彼らはインドに進出して、そこで医療機器を販売しようとしました。そしてインドの市場に合わせて携帯式の超音波診断器を開発したのです。さらに、この携帯式の超音波診断器を米国やほかの国の市場でも販売するようになりました。
米P&Gもここ日本で同様のイノベーションを起こしています。日本の市場ニーズに応じてスキンケアクリームの「SKⅡ」を開発し、それをほかの国でも販売しています。
このようにグローバル企業として競争していくためには、世界の異なる市場から学び、それをイノベーションに結びつける学習能力を身につけることが求められます。
いわゆる日本企業に働く日本人には『日本企業に限らず、ほかの国の企業にも言えることですが、グローバル化するためには、「我々は日本企業である」という認識から脱却して、「我々は日本企業ではない。グローバル企業である』という認識を持たなければなりません。」というJ. エドマンさんの正論(日経ビジネスOn Line2013年10月17日)は感情的に受け入れがたいかもしれません。明治維新以降、「国家=企業=個人」という価値観を刷り込まれ、且つこれによって世界第二位の経済規模となる成功体験を持った人々には理解しがたい事でしょうし、既得権の侵害と感じられます。日本で株主主権がなかなか浸透しないのも、株主は投資家として儲かるならどこの国の企業にも投資する「国家=企業=個人」の概念に反する存在だからでしょう。グローバル企業の中には、本社を持ち株会社制にして企業を国家から切り離し、トランスナショナル化を目指す企業も有りますが、「国家≠企業≠個人」という感覚を持つグローバル経営のプロフェッショナルの育成が課題です。(2013/10/24)