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M&Aの光と影、サムスンの事例から学ぶ

Win-Winになるには敬意と配慮が必要だ

2013年11月28日(木)

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 ホンダから韓国サムスングループに移籍して驚いたことの1つが、長期的な視野に立った研究開発を手がけないことだ。サムスンでは自前で20年以上かけて事業化することはあり得ない。ホンダではゼロから独自に勉強して研究開発を進め、仮に20年をかけても事業化に結び付ける粘り強さがあるだけに対照的だった。

 サムスンでは、グループの中に様々な会社がある。一見すると、グループ内だけで多くのチャレンジをできそうだが、いざ新規事業を検討するフェーズになると、まずはパートナー探しからとなる。

 新規事業を開拓する際の戦術は、強い相手や特徴技術を持つ相手のM&A(合弁・買収)に尽きる。サムスングループでは、これを公に発信・発言している。

 2011年にサムスングループが合弁会社を設立した事例を紹介しよう。サムスン電子は米国のヘルスケア企業であるクインタイルズと230億円規模の投資で合弁会社を設立。日本企業とは、サムスンLEDが住友化学とLED(発光ダイオード)向けのサファイア基板事業で、サムスンモバイルディスプレーが宇部興産と有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)ディスプレー向けの樹脂基板事業で、それぞれ合弁会社を興している。素材分野では、日本の要素技術の高さが証明されたといえるだろう。

 エネルギー分野では、サムスン精密化学が米国MEMCと多結晶シリコン事業で合弁。サムスン精密化学は、戸田工業ともリチウムイオン電池の正極素材事業で合弁会社、STM(SAMSUNG TODA MATERIAL)を設立している。

 戸田工業との合弁会社設立には筆者も直接関与した。戸田工業の戸田俊行・前社長から筆者が受けた提案に端を発したものだ。筆者が戸田社長の提案に積極的な姿勢を示したのには理由がある。リチウムイオン電池の正極材料の供給では、ベルギー・ユミコアがサムスンSDIと密接なビジネスをしていた。筆者がサムスンSDIに移籍した2004年には既に、サムスンSDIとユミコアは電池向けビジネスを構築しており、事業として成長途上にあった。

 その後、2006年ごろにはユミコアの力が一段と強くなり、サムスンSDIの電池事業の経営会議でも購買担当役員から嘆きの声が上がるほどに。それは「ユミコアが強くなりすぎて、価格交渉してもなかなか首を縦に振ってくれない」というものだった。

 そういう背景の下、戸田社長が筆者に「打倒ユミコアのための合弁事業にしたい」と打診してきた。これに対し筆者は、「我々の電池事業にとって、ユミコアの独走にライバルを提示することは競争力を高めることにつながる。ぜひ実現できる方向で検討を開始しましょう」と返答したのだった。2009年後半の話だ。

 筆者は、戸田社長からの提案をサムスングループ内の経営戦略部門と共に検討。結果として、筆者が所属していたサムスンSDIとではなく、素材ビジネスを手がけているサムスン精密化学との合弁会社設立での検討を逆提案することになった。電池事業を手がけるサムスンSDIとの合弁では、正極材料のサプライチェーンに大きな影響を及ぼすからである。

 ほどなくして、戸田工業もこの逆提案に同意いただいた。今後、この合弁事業が成功するかどうかは、サムスンSDIの車載用リチウムイオン電池事業の進展次第だろう。

M&Aの波は医療ヘルスケアにも

 サムスングループが今後の成長事業の柱の1つに掲げる医療・ヘルスケア事業もM&Aが盛んだ。2011年に、バイオ医薬関連のグループ会社・サムスンバイオロジクスを設立。世界のバイオ医薬品業界に対して品質重視の製造プロセスの開発、そしてcGMP(current Good Manufacturing Practice=製造管理および品質管理規則)のすべてにわたるフルサービスプロバイダーを目指した新会社だ。

 生産設備は、単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体分子「モノクローナル抗体」や人為的にアミノ酸配列を変更した「組み換えタンパク質」に特化。サービス事業には、細胞株の継体培養や処理、分析手法の開発、分析サービスに加えて、cGMPに基づく医薬用物質、医薬品の臨床および商業用大規模生産なども含まれている。

 ホンダは人材を育てるが、サムスンは人材を競わせる。同様に、ゼロから研究開発に着手するホンダに対して、サムスンは基本的にM&Aで時間を買う――。このように、ホンダとサムスンでは企業文化や経営スタイルが大きく異なります。

 本書は、ホンダとサムスンで技術開発をリードした著者が見た日本と韓国の比較産業論です。サムスンという企業グループの実態に加えて、日本人ビジネスパーソンと韓国人ビジネスパーソンの特徴、日本の電機大手が韓国企業に負けた理由、日本企業がグローバル市場で勝ち抜くために必要なことなどを自身の体験を元に考察しています。ホンダとサムスンという企業を通して見える日韓の違いをぜひお読みください。

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「M&Aの光と影、サムスンの事例から学ぶ」の著者

佐藤 登

佐藤 登(さとう・のぼる)

名古屋大学客員教授

1978年、本田技研工業に入社、車体の腐食防食技術の開発に従事。90年に本田技術研究所の基礎研究部門へ異動、電気自動車用の電池開発部門を築く。2004年、サムスンSDI常務に就任。2013年から現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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