「NTTグループ内にはまだ、自らがメーンプレーヤーであるという意識が根強く残っている。残念ながらこれは大きな時代錯誤だ。我々は『One of Them』にすぎないのだという自覚を持つ必要がある」
昨年末にインタビューしたNTTの鵜浦博夫社長は就任からの1年半をこう振り返りながら、グループ内の企業風土改革が道半ばであることを繰り返し強調した。その言葉の端々に、グループ内の意識がそろわないことへの苛立ちが潜んでいるように感じた。
主役の意識を捨てられないドコモ
鵜浦社長は特定の組織や部署を名指しすることはなかったが、「メーンプレーヤーであるという意識が根強く残っている」という発言が、グループの屋台骨であるNTTドコモを意識してのものであるのは確実だろう。電話やインターネット接続などの「プロバイダー」から、顧客企業のビジネスモデル変革を支援する「バリューパートナー」への転換を目指すNTTグループの中で、消費者に直接付加価値を提供する「サービス事業者」であり続けようとするドコモだけが全く異なる方向に向かっていることは、誰の目にも明らかだからだ。
ドコモは「メディア・コンテンツ」「コマース」「金融・決済」など通信事業以外の「新領域」で2016年3月期までに1兆円の売上高を創出する計画を掲げている。この領域のノウハウや顧客基盤を獲得するためのM&A(合併・買収)にも積極的で、2012年に野菜宅配大手のらでぃっしゅぼーやを傘下に収めたのに続き、2013年にはファッション通販サイト運営のマガシークや料理教室「ABCクッキングスタジオ」を全国に展開するABCホールディングス(HD)を立て続けに買収している。

ただし、あまりに性急なM&A戦略には疑問符もつきまとう。ドコモの担当者によると、ABC HDとはもともと2013年春に業務提携したが、ABC HD側のIT(情報技術)人材があまりに不足していたため戦略を進めることができず、思い切って買収に踏み切ったのだそうだ。提携効果を加速する目的のために本来は顧客だった企業を丸ごと買ってしまうという発想は、NTTグループが掲げる「顧客企業のバリューパートナー」という戦略とはあまり相容れない。
ドコモはM&Aのほかにも、オムロングループと共同出資で健康管理サービスを提供するドコモ・ヘルスケアを設立したほか、旅行代理店最大手のJTBとも提携して旅の総合サポートサービス「dトラベル」を始めている。各分野のリーダー企業と組むことで消費者の様々な生活シーンを一貫してサポートする狙いは理解できるが、いくら最大手同士が組んだところで、すべての消費者のニーズを汲み取ることは難しい。むしろこうした提携戦略こそが、「メーンプレーヤー」の意識を捨てきれていないことの証左であるようにも思える。
携帯キャリアの儲けは自動車メーカーなどと違い、下流に流れることがない。日本経済にとって死に金のようなものだ。ドコモは集めた金の使い道を誤っている。もったいない。(2014/02/13)