今回は趣向を変えて、筆者が最近読んだいくつかの本の中から印象に残った部分を引用した上で、足元の経済・金融情勢に絡めたコメントを述べてみたい。
◆ニール・アーウィン(関美和訳) 『マネーの支配者』
「キング(イングランド銀行総裁<当時>)は毎年、市長公邸でのスピーチを質問で始め、その答えで締めていた。2010年、彼のスピーチは答えから始まった。答えは『23』である。そして、スピーチの最後に質問を明かした」
「さて、答えが『23』となる質問とはなんでしょう?いくつか思い当たることがありますね。まず、南アフリカワールドカップのイングランド代表チームの人数は23人。次にイングランド代表がアッシズ(クリケットの対オーストラリア代表戦)で最後に勝ったのが23年前。ですが、どちらも違います。それは私とオズボーン財務大臣の年の差です。念のために言っておきますが、若いのはジョージの方ですよ。この年の差がちょうどいいのです。通貨の価値を維持する金融政策に上の世代が責任を持ち、債務のつけを負わされる若い世代が財政政策の責任を持つ。うまい具合にインセンティブが配分されているわけです。金融と財政の政策協調を、私は楽しみにしております」
~ 上記の発言によってキング総裁(当時)は、キャメロン政権の財政緊縮路線への支持を事実上表明した。だが、金融政策委員会(MPC)内には、この発言でキング氏が金融政策と財政政策の一線を越えたのではないかという見方から、反発する動きがあった。
~ その後、イングランド銀行の総裁はカーニー氏に交代した。カナダ銀行の総裁から英国に迎え入れられた同氏は現在、49歳である。オズボーン財務相は43歳なので、年齢差はわずか6歳に縮小した。
日本の場合はどうか。麻生財務相は73歳、黒田日銀総裁は69歳で、ともに高齢層に属している。キング氏が述べた「債務のつけを負わされる若い世代が財政政策の責任を持つ」形にはなっていないわけだ。なお、英国と日本の財政収支を比較してみると、いずれも2010年から改善しているものの、英国の方が改善のペースは速い。
中銀が使える「薬」は無限ではない
~ この本の原題は“The Alchemists(錬金術師)”。日本語版には、東京大学大学院教授である渡辺努氏による解説が付されている。その中で、イングランド銀行のMPCメンバーを務めたアダム・ポーゼン氏が同書をレビューした際に、中央銀行家は錬金術師というよりも薬剤師のようなものだと述べたことが紹介されている。
中央銀行家が使える薬は無限ではなく、しかも専門の医師の処方せんに従わなければならず、薬事法の縛りもある。そうした中で副作用を最小化しながら適切な薬を選択しその量を決めるのが中央銀行家の仕事だ、という意味だという。渡辺教授は、「日銀の現総裁である黒田東彦総裁は錬金術師を目指しているのに対して、中央銀行のやれることには限界があると主張した前任の白川方明総裁は薬剤師型なのかもしれない」とした。言い得て妙である。
ソマリアの事例は抱腹モノでした。日銀券とシリング(ビットコインもですが)が同等の信頼を得ていると本当に思っているのであればエコノミストを名乗るのを辞めたほうが良いと思いますよ。冗談は置いておいて、「中央銀行は、錬金術師ではなく薬剤師だ」という表現は間違ってはいないと思います。日本の病理は長く続いたデフレと信じられないほどの円高(共に解消されつつはある)でした。それの処方箋として買いオペは正しい選択でしたし、実際(外国人投資家が円安感から購入したにせよ)株価も上昇し、ある程度の景況感の上昇には役立ちました。現在の病理は、金融緩和を行っても投資や人にお金が回らないことですよね。こちらを日銀のみで解決することは不可能であり、医者(政府)と一緒に正しい処置(金融緩和と政府支出)を行わなければなりませんちなみに、内国債で日本円建てで行っている限り、財政収支を問題視すること無意味だと考えるべきでしょう。それこそ錬金術ですが、日本円を刷れば借金は返済出来てしまうのですから。まぁ0か10かの話をしても仕方ありませんが、インフレ率などを考慮しながらソフトランディングしていく道を探るのが妥当な選択であり処方箋であると個人的には思いますけどね。(2014/06/10)