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何が「イスラム国」を駆り立てるのか

理想と矜持の背景にある史実を知る

2014年12月26日(金)

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 2014年は「イスラム国」に関連する事件が世界中で引き起こされた。9.11以降、イスラムに関する報道は日本でも欧米寄りの視点のものが大半である一方、本質的な部分がなかなか見えにくくなっている感がある。

 筆者はアラブ文学が専門で、イスラム以前の詩歌や中世の散文文学、説話のほか、中世の史料なども研究対象としている。アラビア語の史料を読み解くことは難しくもあるが、アラブの人々の生活や彼らを繋いできた思考様式にダイレクトに触れることができるのは充実した瞬間(とき)である。本コラムではそうした文化・歴史的視点からイスラムの現在を読み解いていきたい。

 預言者ムハンマドがイスラムを説き始めたのはどのような時代だったかを知れば、「イスラム国」の精神的背景が見えてくる。また、同時代の日本の状況からは、歴史の意外な符合の面白さを感じることもできる。

初期イスラム共同体への回帰

 「過激派」や「テロリスト集団」として名前が知られてきたイスラム国。ニュース映像では顔を覆い、銃を手に持ち黒い旗を掲げた、いかにも凶悪そうなイメージが流されている。集団のリーダーの名には「容疑者」が付けられ、お尋ね者であることが示されている。だがこの集団に加わりたいと世界中から集まる人々もいることは確かで、日本からも渡航を企てた日本人学生がいたことが報道された。いきなり国家宣言をしたイスラム国は何をしようとしているのか。

 イスラム国は、2000年の「タウヒードとジハード集団」というヨルダンで結成されたグループから始まり、アルカーイダなどの組織ともかかわりながら2014年6月にアルバグダーディー容疑者がカリフ(後継者)宣言を行って「イスラム国」樹立の時を迎えた。

 イスラム国樹立までの活動地域は、主としてシリアやイラクであった。シリアはアサド大統領のシリア国軍と自由シリア軍との内戦状態にあったし、イラクは2003年のイラク戦争でサッダーム政権が倒されて以降、今日に到るまで安定した政権が持たれていない。端的に言えばイスラム国はいわばそうした混乱の地で、不 安定な日常を暮らす人々の中から生まれてきた集団であるといえる。

 彼らが基本として掲げる主張はひとことで言えば、他国によって引かれた国境を無効とし、初期のイスラム共同体に戻ろうとする「サラフィー主義」である。

 かつてオスマン帝国領の分割をめぐって、英・仏・露の間で「サイクス・ピコ協定」が結ばれ、シリア、イラク、レバノン、ヨルダンの国境と英仏などその統治国が決められた。この地域の地図を見れば、国境が定規で引いたような不自然な直線になっているところがあることが分かるだろう。

 その後、それぞれの国は独立を果たすが、英・仏・露によって「勝手に」国境が引かれて統治されていることにイスラム国は反対しているのである。そしてかつてのイスラム帝国の版図にもう一度戻すべく、現在政治的に非常に不安定なシリアやイラクから活動を開始したと思われる。

「イスラム国」が版図としている地域。右下には「カリフ制国」と書かれている

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「何が「イスラム国」を駆り立てるのか」の著者

近藤 久美子

近藤 久美子(こんどう・くみこ)

大阪大学言語文化研究科教授

アラビア語・アラブ文学専門。イスラーム以前から中世までの文学作品などをアラビア語文献から分析。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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