前回はファミリービジネスにとって家族憲章というルールと家族会議というコミュニケーションの場が如何に重要であるかということを説明しました。今回は、もう1つの柱として、こうしたルールや会議体を適切にワークさせ、結果的に家族の事業永続や資産形成を可能にする「ファミリーオフィス」の役割について述べたいと思います。
ファミリーオフィスの役割(1)家族会議の企画・運営
ファミリーオフィスは、ご家族に対して様々なアドバイスを行います。また、ご家族からの指示を受け、事務代行者としてを実務的な仕事を遂行する機能も有します。
その第一の役割は、家族会議の企画・運営の機能です。前回も指摘したように家族会議で良質な議論を行うことは極めて重要です。しかし、家族だけで会議をすると目上の方や経営に直接タッチしている方への遠慮もあって、その他の方々は率直な意見が言えないケースが見られることも事実です。
従って、ファミリーオフィスは、会議に出席してファシリテーターの役を果たすと同時に、会議開催前に個々のご家族にヒアリングをして懸案事項を理解し、その解決オプションについても準備をする必要があります。また、そもそもご家族が事業や資産形成の現状や課題について事前に十分認識していなければなりませんので、情報の整理や的確な伝達も重要な課題となります。
ファミリーオフィスの役割(2):事業経営へのアドバイス
第2の役割は、事業経営に関するアドバイスです。しかし、これは事業経営者に対して行う日々の経営アドバイスではなく、共同体として株式を所有する家族会議メンバーに対するアドバイスです。ご家族が日々の経営についてアドバイスを行うことは可能でないばかりでなく、過度な干渉は経営陣の自由度を制限し、効率性を損なうので適切でもありません。従って、家族会議メンバーと事業経営陣との間で事前に協議が必要な重要事項は何かという点に同意を得る必要があり、ファミリーオフィスはその決定や具体的内容に関するアドバイスを行います。その内容は各家族によって異なりますが、役員の人事、役員報酬の決定方式、退職時期や退職金のルール、組織再編、M&A等規模の大きな投資案件の決定などが含まれます。
最も難しいのは、家族会議メンバーと経営陣との距離感であり、家族会議メンバーが経営陣の決定を軽んじると、家族会議は屋上屋となってしまいます。従って、ファミリーオフィスは家族憲章で規定されたご家族としての理念に合致した経営が本当に行われているか、ご家族の結束にひびが入るようなおそれはないか、事業永続を脅かすようなリスクはどのようにコントロールされているか、といった観点に絞ってご家族が経営内容を監視できるようにそのサポートを行い、家族が経営陣に対して敬意を払うことが大変重要であるという立場を強調します。同時に経営陣に対しても家族会議メンバーへの敬意を要求します。
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