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村井、樋口、瀬戸、福地、4人の社長から受けた薫陶

アサヒ泉谷直木社長のプロ根性(下)

2015年3月20日(金)

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 「僕はエリートコースに乗っていたのでもないし、本流にいたわけでもありません」。この言葉は謙遜ではない。泉谷直木は今、アサヒグループホールディングスの社長だが、最初から将来を嘱望されていたわけではないようだ。様々な巡り合わせの結果といえる。もちろん単に偶然だけではない。運を呼びよせる何かを持っていた。

上半身裸でビールの空き瓶を運んだ

アサヒグループホールディングスの泉谷直木社長(写真:的野弘路)

 営業職を希望して朝日麦酒(当時)に入社したものの、博多工場の倉庫課に配属された。事務系の大卒同期生は40人で、このうち工場に入ったのは数人である。法学部卒の泉谷以外は、経営工学などを学んできており工場管理の業務を学ばせる狙いもあった。倉庫課の仕事は肉体労働である。トラックで戻ってきたビールの空き瓶や空き箱を倉庫にいったん納める。それをまた日々の生産計画に従って、トロッコに載せて生産ラインの洗瓶機まで運ぶ。

 泉谷は大卒なので、現場の従業員を管理するのが本来の役割だが、実際には上半身裸になって一緒になって荷を運んだ。本人は当然「入社時の成績がよっぽど悪かったか、あるいは僕への会社の期待が低いのか」と思う。入社した1972年当時、アサヒは下降線をたどっていた。「売れていないので、仕事があまり無くて、作業は夕方4時半には終わりました」。たまに九州支店で営業をやっている同期が背広にネクタイ姿で工場にやってくる。「こっちは作業服にズック靴でしょ。うらやましいなと思ったこともありましたよ」と言う。

 しかし、ふて腐れるようなことはなかった。育った京都の家を初めて出て解放感もあって、それなりに楽しさがあった。またこうも振り返る。「現場の仕事は理屈抜きですし、終われば酒を飲んでおだをあげる。僕の親父みたいな人たちと一緒に汗を流して作業するわけです。こういうのも嫌いではなかったですね」。適応力のある外向的な性格なのだろう。

いやいや首を突っ込んだ組合活動

 仕事は1年ごとに変わり、庶務や購買もやった。深刻に悩まなかったとはいえ、「3年目、4年目までは、ぐらついていました。こんなはずではなったとね」。そんな時に、労働組合から声がかかった。本社採用の大卒組合員が交代でやる指定ポストに指名されたのだ。工場支部の書記次長である。「僕は組合嫌いだったんです。『朝日麦酒に入ったのであって、組合に入ったのではない』と抵抗したのですがね」。

 こんな調子でいやいや首を突っ込んだ組合活動だが、意外にもはまった。「やってみたら、面白くてね」と言う。会社で役職に就けば権力が伴うので、誰でも一応は務まる。しかし「組合では『人気』がないと駄目なんです。組合選挙で票が集まるかどうかは人気次第です。これは人間臭くていいな」と、俄然やる気が出た。

 会社の仕事はそこそこにして、組合活動を1年、真面目にやったら、組合の本部に引っ張られた。今度は抵抗なく引き受けた。しかし夫人はあまり賛成ではなかった。当時、ビール会社の事務系社員の主流は営業である。もともと傍流にいた。さらに労働組合では、脇道にどんどんそれて行くように思える。ところが労働組合の仕事を一生懸命やったおかげで、道が開けたのだから、人生はわからない。

 その話に行く前に、工場勤務の経験が泉谷にとってどのような意味があったのかについて触れておこう。入社時の志望とは全く違ったが、泉谷は「人生に無駄なことは一つも無いですね。今では、工場に配属されて、ものすごく感謝しています」と語る。工場も昔と今とでは、生産設備も規模も変わっているが、独特の空気感は実際に仕事をした者でなければわからない。今、経営者になって、工場の現場を歩く時、自然に入って行ける。ものづくりの大切さは心得ている。

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「村井、樋口、瀬戸、福地、4人の社長から受けた薫陶」の著者

森 一夫

森 一夫(もり・かずお)

ジャーナリスト

1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、特別編集委員兼論説委員を歴任。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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