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「詩人のような感性」でらつ腕を振るう経営者

三菱ケミカルホールディングス小林喜光会長(下)

2015年5月25日(月)

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三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長(写真:尾関裕士)

 三菱ケミカルホールディングス会長の小林喜光は、前例や慣行にとらわれずに会社を作り変えてきた。組織に埋没しないので、内在する問題をクールに見て、迷わずメスを振るえるのだろう。もともと故郷山梨を出て以来、因習に染まらぬ生き方を貫いてきた。それは「生きる意味」を問う自分探しの人生の遍歴ともいえる。

 小林は昨年、日本経済新聞夕刊の随筆欄「あすへの話題」に半年間毎週1回、寄稿した。最終回にいかにもと思える文章をつづっている。

 「10代で鮮烈な詩を書いたランボオにも、私は心ひかれた。『実存的超越/Existential Detachment』とも言うべきか。彼らの何倍も生きた私だが、今でも彼らのような知性と感性で世間を見つめたいと思う時がある。それと同時に、サルトルらの言う参加(アンガージュマン)のただ中にある己の日常に苦笑いを浮かべる」。

 感性のおもむくままに書いたモノローグである。日々、人を動かし利益を上げることに追われる経営者の文章だろうか。「『あすへの話題』は女房から『いい年をして、まだこんなことを言っているの』と言われましたよ」と笑う。小林は68歳である。人柄はいたってざっくばらんだ。

 普通の企業人からは少し外れている。「詩人のような感性ですね」と感想を言うと。「僕は散文的なものは駄目なんだ。韻文というか直観的なものが肌に合う。相変わらず、ランボオ、ベルレーヌ、中原中也が合っている。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』や『罪と罰』のような長編小説はなじめない。単発の連続が人生だと思っていますから」。この人が、実際の経営ではらつ腕を振るい、経済同友会の代表幹事になったのだから面白い。

 小林は「日本人はユダヤ人と同じ流浪の民になって海外に出て、また戻ってくればよい」という意見を持っている。自己のアイデンティティを確立するには、いったん異質な世界を知って、自分を客観的に見られる目を持てという意味である。

『二十歳のエチュード』に衝撃受ける

 小林は幼稚園までは東京の台東区にいたが、高校まで山梨県の櫛形町(現南アルプス市)で育った。父親は縫製関係やタクシーなどの事業を営み、町長も務めた。「商売人の家です」と言うが、山梨大学付属中学の2年生くらいから「何のために生きるのかという悩みに目覚めた」と言う。

 太宰治や坂口安吾などを読みふけり、甘美で虚無的なデカダンスの気分に浸った。県立甲府第一高校に進み、終戦の翌年に20歳足らずで自殺した原口統三の『二十歳のエチュード』を読んで衝撃を受ける。詩人ランボオなどに傾倒した純粋無垢な原口は生きる意味を見失って行き詰った。「多数の中の1人に過ぎない自分がうとましく思えた」小林は共感した。

 「しかしこんな答の出ないことを考えていたら、最後には自殺しかねない」と考えて、大学は東京大学教養学部基礎科学科に進学した。「論理的に割り切れる科学に進んだ方がまっとうに生きられるのではないか」と思ったわけだが、自己の存在理由を問ういわゆる実存的悩みは続いた。大学でもサルトルやカミュなどを貪るように読んだ。

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「「詩人のような感性」でらつ腕を振るう経営者」の著者

森 一夫

森 一夫(もり・かずお)

ジャーナリスト

1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、特別編集委員兼論説委員を歴任。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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