「杉田庸子の「U.S.発 企業会計最前線」」

NECが米国で決算報告できない事情

“どんぶり勘定"では、もう認められない

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2007年4月16日(月)

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 NECが米ナスダックの上場を取り消されるかもしれない。そんなニュースが米国や日本で流れている。

 米国で上場する外国企業は決算日後、180日以内に年次報告書をSEC(米証券取引委員会)に提出しなくてはいけないのだが、 NECが2006年3月期決算から1年が経過してなお、米国基準による決算報告書をSECに提出していないことがその理由である。

 2007年4月2日が通常90日間認められる延長措置を2回申請したうえでの締め切りだったのだが、4月半ばを過ぎた現在も決算報告書は提出されていない。ナスダックはこの6月に開催する市場上場・ヒアリングレビュー評議会まで上場継続か否かの決定を先延ばししたと報道されているが、1年前の決算報告が提出できないというのは上場企業として異常事態であり、先行きの読めない状態だ。

 NECはナスダックにADR(米国預託証券)を登録しており、約8600万ドル(約101億円)の市場価値がある(2006年3月上旬)。これはNECの時価総額の1%以下であり、ナスダック上場廃止がNECの資金調達上の大きな問題になることはないと言える。しかし、日本を代表するテクノロジー企業の1つとして、米国で上場しているというステータスを失う痛手は大きいだろう。

 一方、NECは日本国内向けには日本基準で2006年3月期決算を報告済みであり、連結売上高4兆8249億円(前年売上高比0.5%増)が公表されている。その後も四半期決算・中間決算は日本基準で適時に行われており、2007年2月には2007年3月期第3四半期決算を発表済みだ。

 NECが米国基準では1年かかっても決算発表ができず、日本基準では適時開示ができているのは不思議な事態である。そのような事態が発生した理由は、日米の売り上げ計上に関する会計基準の差にある。

VSOEって何?

 NECの2007年3月期半期決算説明資料によると、ベンダーとして行う保守・サポートサービスの公正価値を示す客観的証拠(VSOE、Vendor Specific Objective Evidence)に関する米国の監査手続を完了するために必要なデータの提供に時間を要しており、SECに対し2006年3月期に関する年次報告書の提出が遅れている、とのことである。保守・サポートサービスはNEC連結売上高の50%近くを占めるITソリューション事業にかかわるもので重要性も高い。

 VSOEはハードウエア、ソフトウエア、保守・サポートサービスと複数の製品やサービスが一体となった「複合契約」の会計処理について求められる証拠である。米国会計基準では、「複合契約」に関して契約を構成するそれぞれの要素を分割して収益を計上することが求められている。

 例を挙げると、X社が1億円でソフトウエアを、2年間の保守サービスを付帯して顧客に販売したとする。ソフトウエアの引き渡しは2006年3月1日に行われ、保守サービスは引き渡し後、2008年2月29日までの期間をカバーすることになる。

 この場合、まだ提供していないサービスの部分に関しては、将来2年間にわたって期間按分して計上する必要がある。例えば、1億円のうち、1200万円分が保守サービスの対価だとする。2006年3月期にその会社が収益として認識できるのは、ソフトウエアの対価である8800万円(1億円−1200万円)と、保守サービスについては引き渡されてから使用された2006年3月の1カ月分のサービス収益50万円(1200万円÷24カ月)の合計8850万円であり、全販売額の1億円ではないのだ。

 問題なのは、どうやって「サービス部分が1200万円」ということの証拠を揃えるか、である。サービス部分を過小に見積もれば、初年度に計上できる収益の金額が大きくなり、そこに利益操作の余地が生じてしまう。そこで、「各構成要素の公正価値」を見積もることが必要とされた。

 この公正価値を示すのに、最も信頼され得るのは、個々の製品及びサービスをばら売りした時の価格というものだ。仮に先のケースで言えば、保守サービスなしのソフトウエアの定価が8000万円で、保守サービス料が2000万円で販売された実績がある場合、その販売価格が複合契約の構成要素に関するVSOEというわけである。

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著者プロフィール

杉田 庸子(すぎた ようこ)

杉田 庸子 公認会計士
1976年生まれ。98年公認会計士二次試験合格、99年慶応義塾大学経済学部卒業後、朝日監査法人(現あずさ監査法人)東京事務所勤務。大手金融機関、製造業などの会計監査に従事する。2002年公認会計士登録。2003年に渡米し、BDO Seidman, LLP サンフランシスコ事務所に勤務。主に米国上場企業の会計監査および内部統制監査や買収調査などを担当する。2008年末に日本に帰国、現在、次なるチャレンジに向け充電中。

(写真:Akiko Nabeshima)

 



このコラムについて

杉田庸子の「U.S.発 企業会計最前線」

活発な資本市場の動きとリンクするかのように、常に新しい話題が絶えない米国企業会計実務。グローバリゼーションの波の中、日本企業にその影響が及ぼされることも多く、その動向は無視できない。米国の監査法人にて上場企業の会計監査を担当し、企業会計実務の最前線にある筆者が、最新の話題をお届けします。

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