「誰でもメディア宣言」

Vol.3 「ハルヒ」のヒットは“憲章”のおかげ

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2007年7月25日(水)

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 前回、ストーリーを提供することにより、コミュニティが組成できると言いました。ただし、「企業が言いたい情報」を一方的に送り続けているだけでは、当然のことながらコミュニティは組成されません。

 ストーリーにより、信頼やブランドが醸成される時代です。ストーリーは、テキストだけで構成されるとは限りません。動画や音声などのリッチコンテンツはもちろん、ユーザーによるフォーラム(掲示板)、ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、Wikiも駆使し、紡がれていきます。

 以前に、ネット上で話題となったアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」について、原作を持つ角川書店の野崎岳彦氏(スニーカー文庫編集長)に話をお伺いしたことがあります。アニメがヒットし、さらに原作が売れまくったというヒットの連鎖について、その要因を聞いたのです。

「ハルヒ」ヒット連鎖の理由

 同アニメのヒットにおいて、メディアミックス(YouTubeへの画像投稿など)は副次的な現象であり、そのカギは、私なりの言葉にすると「ストーリーの共有と創出」だったのではないかと思いました。

 野崎氏は、同作品には文庫の上位に、「ハルヒ憲法(憲章)」のようなものがあり、主人公のハルヒならこうする、という行動の指針として、演出やストーリーの制作の折に照らし合わされるとのことでした。そのため、アニメも音楽もプロたちにより、その「ハルヒ憲法」によってつくられ、さらにユーザー(読者や視聴者)たちも、その憲法を理解・共有し、そこにYouTubeやブログを通じて参画することで、さらなる大きなムーブメントが起きるまでに至ったのではないか、ということです。

(参考記事その2)【ヒットの“共犯者”に聞く】
涼宮ハルヒの場合 VI
ランティスのプロデューサーにインタビュー その1

 この場合、私がカギと言ったのは、優れたストーリーを提供することさえできれば、多くの人たちがそのストーリーを中心にメディアを創出し、さらに大きなストーリーを紡ぐことができる、という可能性のことです。

 これまでのメディア組成はトップダウン型でしたが、現代はフィードバックや新しい提案も含めて、メディアは複合的につくられていきます。

 起点に編者がいるのですが、その起点から先は、単に読者が読んでオシマイではなく、読者からのリバースエンジニアリング、および、改変・改良が行われます。そのため、メディアを組成する構成員はプロばかりではなく、著作権的に非合法的なマッシュアップを行う個人も含まれてきます。さらに、どうでもいいような感想を述べるイマイチな個人ブロガーも、検索エンジンから見た場合には、重要な構成要因となります。

 「ここがダメ、あそこがダメ」と批判をする人も、外部デバッガーとして有益な存在だね。

 マッシュアップを許容し、むしろオフィシャルにそういう場や機会を用意してあげることで、ストーリーはさらなる価値を帯びるかもしれません。

 そして、集合知が集合愚に変わるという脆弱性を回避するには、よりニーズに合ったストーリーの提供と、そのメディアスパイラル自体の設計仕様(編集計画)をどうするのかが重要です。

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著者プロフィール

小林弘人(こばやし・ひろと)

小林弘人

1994年インターネット黎明期に米で勃興するインターネット文化を伝える雑誌「ワイアード」を創刊。1998年、株式会社インフォバーンを設立。同年、月刊誌「サイゾー」を創刊。「ポッドキャストナビ」「カタロガー」などのウェブサイトを立ち上げる。ブログ黎明期から著名人ブログのプロデュースに携わり、木村剛、眞鍋かをりなど、人気ブログを書籍化し、ブログ出版の先鞭をつけた。また、アップルの iTunesMusicStoreJapanでオーディオブックを販売。稲川淳二のiPod怪談がベストセラーに。 2005年、内閣府と経済産業省によるコンテンツ政策委員会に参加。出版事業の価値向上のために「出版バリューマネジメント研究会」を株式会社インスパイアと共に発足。2007年、全米で著名なブログメディア「ギズモード」の日本版を立ち上げる。メディア・プロデュース/経営の傍ら、大学、新聞社、NPO 等の招聘で講演などを精力的にこなす。現在、共同通信が新聞社に配信する「本の街角」にて、毎月デジタル・コンテンツに関するコラムを連載中。



このコラムについて

誰でもメディア宣言

ウェブの登場で、紙メディアはどう変わるのか。いや、そもそも「ウェブ」と「出版」を、分けて考えるのが間違いではないのか? 日本版「ワイアード」や「サイゾー」を作った小林弘人氏が、よりにもよって出版社のサイトに腰を据え「新しいメディア人、出でよ」という観点で語る「出版進化論」。

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