「東急ハンズの謎 過剰な品揃えビジネスの本質」

東急ハンズの謎 過剰な品揃えビジネスの本質

2007年12月17日(月)

「売らない」ことも、大事な仕事
〜たとえ、「欲しい」「買う」と言われても

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 「プロの消費者」としての東急ハンズの従業員の姿勢は、品揃えだけではなく、「接客」にも表れています。

 小売業でありながら、「売らない」という選択をすることがあるのです。

 例えば、お客様がしたいと思っていることが、リスクをともなうことであったり、十分な裏づけがないとできないことだったりした場合は、商品の購入を断念していただくよう説得します。

 私が内装材の担当だったとき、そのリスクを説明するのに困った商品があります。窓ガラスに貼って、直射日光を避けたり、紫外線をカットしたりするためのフィルムです。

 このフィルム、ブラウン系やブルー系(透明のものもあります)の大変薄いシートで、紫外線を90%以上カットしてくれる優れものです。しかし、中にワイヤーが入っているガラスには貼っていただけないのです。

 窓ガラスには、割れた際に飛散するのを防ぐため、ワイヤーが入っているものが多く見られます。このタイプのガラスにフィルムを貼ると、ガラスにヒビが入る可能性があります。フィルムを貼ったガラスに直射日光があたると、何割かの光線がここで止められ、その光線によってガラスは熱を持ちます。

「絶対にダメ、というわけじゃないんでしょう?」

 中に何もなければ問題ないのですが、ワイヤーがあるとそれも熱されます。やっかいなことに、ガラスと金属では耐熱強度が違いますから、ある一定温度を超えると、ワイヤーのみが膨張してしまい、ガラスがヒビ割れたり、場合によっては割れてしまったりするのです。

 これは、商品説明としてメーカーもきちんと記載しているのですが、「いや、たぶん大丈夫だよ。買っていくよ」「絶対、割れるってわけじゃないんだろう」などと、私に同意をもとめるかたが、大変多くいらっしゃいました。困っているからこそご来店いただいているのですから、何とかならないかというお気持ちはよくわかります。ましてや理論上は割れる可能性があっても、必ず割れるというわけではないのです。

 しかし、日光や熱という目に見えないもののことでもあり、どのくらい日光が当たるのか、ガラスの大きさ、厚み、などと条件は様々で、「お客様の場合は大丈夫だと思います」とは絶対に言えないのです。

 わざわざご来店いただいたお客様に、購入をあきらめていただくのは、本当に心苦しいことです。しかし、商品のことを正確に理解していただいて、起きてしまうかもしれないことを防ぐのも従業員の義務であるはずです。

 もっとも多いのが、壁に額などを掛けるためのフックをお求めのケースです。写真などを額に入れて飾りたい。その額を掛けるためのフックを買いたいがどれを買えばいいかという質問を、本当によく受けます。

 この壁用フック、簡単なことのようで、実はやっかいなのです。壁の材質によって、使うべきフックの種類が違うのです。

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著者プロフィール

和田 けんじ(わだ・けんじ)

1959年生まれ、愛媛県出身。愛媛県立南宇和高等学校を卒業後、三和銀行に入行。預金係、取引先係等として4年半勤務。企業のネームバリューに頼らず、自分個人の能力を試したいと思い退社。趣味である音楽の知識を生かすべく、レコードチェーン店に入社。1983年、大阪・千日前という「アウェー」の地でロックとジャズの専門店を展開。「売れ線」を無視し、徹底した本物志向の硬派な店作りで、外資系大型レコードストアに対抗。  1991年、音楽という「趣味の世界」から「生活の場」に主戦場を移すべく、東急ハンズに入社。仕入れ販売員として、家具・素材・内装材・バストイレ用品・収納用品・アウトドア用品等々を歴任。2007年、「自分自身に就職したい」との突然の思いから、東急ハンズを退社。サービス業・接客業で培った「言葉力」を武器にライターの世界へ転身。エネルギー源は、日々のボクシングのトレーニング。 REAL SIMPLE JAPANのサイトで「買い物は恋愛です」を連載中。個人ページはこちら


このコラムについて

東急ハンズの謎 過剰な品揃えビジネスの本質

東急ハンズは、今ウェブ上で展開されていることを、30年も前から店頭でやっていた!? 16年間東急ハンズに勤務してきたベテランが明かす、ハンズの仕入れ、販売の秘密は「市場の需要・傾向だけではなく、自分がおもしろいと思ったもの・消費者の方にお勧めしたいものを積極的に仕入れる」こと。売れ筋のみに固執せず、豊富かつ専門的に商品を展開する、という意味では、ネット通販に見られるロングテールビジネスの先駆けとも言える。しかし、それをリアル店舗でどうやって実現できたのか。「売れるものを効率よく売る」やり方で行き詰まる小売業が多い中、今こそ、ハンズの「非常識」な方法を学ぼう。

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