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「ぬれせんべい」が『鉄子の旅』につながったのはなぜ?

『がんばれ!銚子電鉄』その2

  • 向後 功作

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2008年1月30日(水)

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 千葉県にある銚子電鉄は、乗降客数の減少から厳しい経営状況に陥り、2006年11月には車両の点検費用にも事欠くようになりました。

 ここまでは、地方の小さな鉄道にありがちな話のように聞こえるかもしれません。ところが銚子電鉄が他と違うのは、自ら販売する「ぬれせんべい」の売り上げをもって経営を立て直し、復活への道を歩み始めたというところです。

 このエピソードから、「鉄道会社とは思えない奇策」とか、「地方らしい心温まる助け合いの心」といった視点から銚子電鉄の話をする方もいらっしゃると思います。しかし、それでは、車両の点検費用も払えなくなった鉄道会社が立ち直れた「理由」を見過ごしてしまうかもしれません。

ただの奇策では人もメディアも動かない

 銚子電鉄の復活劇には、メディアが大きな役割を果たしました。テレビや新聞が、繰り返し「ぬれせんべい騒動」を伝えなければ、多くの人が銚子電鉄の経営状況を知ることはなかったはずです。また、インターネットがなければ、我々が情報発信することもできず、銚子電鉄を心配した方々がネット掲示板で支援方法を相談したりすることもできなかったでしょう。

 メディアへの露出や、メディアの利用は、地方が生き残るために欠かせないものです。それは、就任1年で宮崎県の景気を劇的に改善した東国原知事の例を挙げるまでもなく、明らかなことです。

 また、銚子電鉄の「ぬれせんべい騒動」は、企業がメディアとどう付き合っていけばいいのかを考える、ヒントにもなると思います。

 私は銚子電鉄の鉄道部で、車両や施設を管理する仕事をしています。2006年11月に厳しい経営状況が明らかになると、私も社員の一人としてメディアから何度も取材を受けました。その経験から、メディアの果たす役割について考えるようになったのです。

鉄子カラー車両の前で記念撮影

鉄子カラー車両の前で記念撮影

 2007年12月末に、銚子電鉄とメディアの関係を象徴するような「行事」がありました。それは、銚子電鉄で行われた「鉄子カラー車両」のお披露目会です。

 「鉄子カラー車両」とは、『鉄子の旅』という鉄道マンガを描いている漫画家の菊池直恵さんがデザインを考えた車両です。小学館と銚子電鉄が共同で企画したもので、特別にペイントした車両を走らせようというわけです。

 この特別車両のお披露目会には、マンガに登場するトラベルライター横見浩彦さんや、担当編集者の神村さん、編集長の江上さんを始め、鉄子の旅にゆかりのある方が参加しました。しかも、プレスツアーが組まれて、数十人ものメディアの方が取材してくださったのです。

結果としてのクロスメディア化

テープカットの様子

テープカットの様子

 鉄道会社と出版社の共同企画を、テレビ、新聞、雑誌、ネットメディアなどが取材し、ニュースにする。これはまさに、「クロスメディア」もしくは「メディアミックス」と呼べるものではないでしょうか。そして、銚子電鉄が注目を集めたのも、結果としてクロスメディアだったと言えると思うのです。

 銚子電鉄が大きく取り上げられた背景には、鉄道がちょっとしたブームになったことも関係しています。テレビでは、鉄道を題材としたアニメやドラマが製作され、専門誌ではない雑誌でも鉄道に関する特集が組まれることが多くなっていました。

 そんな鉄道ブームの口火を切ったのが、『鉄子の旅』だといえます。鉄子の旅は、2002年から2006年まで、月間漫画雑誌で連載されました。2007年6月にはアニメ化もされ、鉄道好きな人のみならず、広く人気を集めていました。

 鉄子の旅は、鉄道にはそれほど興味がなかった漫画家の菊池直恵さんが、大の鉄道ファンである横見浩彦さんと、日本全国の鉄道を旅するというものです。横見さんは、JRと私鉄すべて合わせた9843駅を乗下車したというすごい経歴の持ち主で、作品のなかでは菊池さんが次第に感化されて、鉄道に詳しくなっていきます。

 鉄子の旅は、個人的にも好きな作品です。2007年の春にちょっとした事故でケガをして、私が入院していたときに知人が差し入れてくれたのが鉄子の旅だったのです。とても面白く、一気に全巻読んでしまいました。実際に鉄道会社で働いている経験からも、共感できるポイントがあると思います。

 銚子電鉄も鉄子の旅に登場します。第1巻では、「銚子電鉄の全駅乗下車」というお話が収録されています。また、アニメの放映にあわせて「横見浩彦さんといく銚子電鉄全駅乗下車の旅」というツアーも企画されました。

 そして、2007年12月には、鉄子の旅限定版として『銚子電鉄応援BOX』が発売されました。カラー版「鉄子の旅」5冊と、「鉄子カラー車両」の模型、書き下ろし「銚子電鉄応援冊子」がセットになったものです。

 実は、鉄子のカラー車両が企画されたのは、この『銚子電鉄応援BOX』にあわせてのことだったのです。というと、「なんだ、宣伝じゃないか」と思う人がいるかもしれませんが、単純に「宣伝」とは言い切れないところがあると思います。

「宣伝」だけではダメ

 それは、「共感」です。

 横見さんを始めとする関係者が、銚子電鉄に共感し、「なんとか応援したい」という気持ちで作ったのが『銚子電鉄応援BOX』なのです。その証拠に、BOXの売り上げの一部が応援金として銚子電鉄に贈呈されることになっています。

 共感は、地方の鉄道や、地方都市がメディアに取り上げられる際に、とても重要だと思います。何も「心温まるいいニュース」として取り上げられるのがよい、と言っているわけではありません。そのニュースを受け取った人が、共感して、「自分も何かできないだろうか」と思わなければ、大きな動きにはつながらないのです。

 銚子電鉄が「ぬれせんべいを買ってください!」とホームページで訴えたのは、2006年11月のことでした。それを見た人が、インターネット通販でぬれせんべいを購入し、自分のブログやSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の日記に銚子電鉄について書き、さらに多くの人に広まっていく。そして、インターネットの盛り上がりを見てマスメディアが取材してくれたのです。

 共感を得るためには、情報の出し方(取材のされ方)も重要です。記事を書く記者やニュースを伝える人が共感しなければ、視聴者や読者は共感できないからです。私は、ぬれせんべいの販売が伸びて車両の検査費を支払うメドがついたとき、テレビの取材で号泣してしまいました。これは、ただ必死だっただけなのですが、このときの経験から共感が大切なポイントであることに気づいたのです。

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