◎前号までのあらすじ
ジェピーの愛知工場では、本社の経理部長、斑目の手によって利益の水増しが行われていた。不正の仕組みを解くカギは、工場にある仕掛品の金額算出方法にあった。達也はその仕組みに気づいた。
本社では公認会計士の西郷による監査が始まり、達也も立ち会っていた。愛知工場での棚卸しの際、達也は西郷に挑発的な態度で接したため、西郷はそのことを根に持っているようだった。
西郷は斑目に、売掛金と在庫の金額が増えた理由を問い、営業キャッシュフローが赤字であることを確認した。達也は「こんな生やさしい監査では何も見つからない」と西郷に詰め寄った。
監査5日目
翌日、そしてその翌日も西郷は黙々と監査を続けた。達也も終日監査に立ち会っていた。
「何を聞かれても勝手に答えるな。すべて俺が答える。おまえの仕事は会計監査の邪魔をすることだ」
斑目はきつく達也に伝えた。
2人はほとんど会話することなく時間が経った。西郷の仕事ぶりを見ながら、達也は以前宇佐見がこんなことを言っていたのを思い出した。
「監査は英語ではオーディットという。同じような単語を並べてみよう。オーディオ、オーディアンス…。分かるね。監査とは聞くことなんだ」
ところが、目の前の会計士はなぜか、一言もしゃべらず、何も問いかけないのだ。
(何を考えているのだろうか…)
達也は会議室に漂う異様な空気を感じた。
(そういえば、宇佐見のオヤジはこんなことも言ってたな)
「監査という仕事には時間の制約がある。だから、すべての不正を見つけることはできない。だからといって、決定的に重大な不正が見つけられないような監査人は落第だ」
会計監査はせいぜい2〜3週間で、1年間に作成された膨大な資料をチェックして、そこから問題点を見つけ出す仕事だ。見落としはある。会社側が「目くらまし」を仕込んでおくこともある。
しかし、ほとんどの「目くらまし」は、監査意見に影響するほど重要なものはない。見つかって欲しくない不正は、慎重に、見えにくいところに隠されている。
隠された不正を見つけられる。公認会計士の能力はこの一点で決まる。少なくとも、宇佐見はそう考えていた。
循環取引、支払代金の横領、在庫を使った利益操作。西郷は、これらの不正を見つけられるのか。
達也はわくわくしてきた。
「団さん。売掛金について聞きたいのですが」
西郷が突然口を開いた。
「前期と比べてワールドワイド電機(WWE)への残高が大幅に増加していますが、理由を教えていただけませんか」
西郷は、機械的に質問した。
「そうでしたか。後で調べます」
と、達也はとぼけた顔をして答えた。
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