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Vol.14 メディアよ、「私」を発見できるか?

既存メディアのキャズムは、作り手の心の「額縁」に潜む

  • 小林弘人

バックナンバー

2008年5月26日(月)

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 PCが発明され、その後にアップル社のマッキントッシュ・シリーズに特化したソフトを開発していたAldus社(後に、Adobeに吸収された)が発明した概念であるDTPの普及により「出版」が個人に近づいてきました。ウェブの出現後、個人のメディア空間は拡張し続けています。そこでは個々の思考や経験を反映しながら、言語、視覚情報、音響というあらゆるメディア形式を織り込んだかたちで、新たな「出版界」、もしくは「放送村」が形成されています。

 それらの群像は、非線形(ノンリニア:紙のように「最初から読む」ことを強要しない)であり、かつ同時多発し、無数に存在します。これまでメディアという言葉を聞いて思い浮かべていたものとは、まったく違う概念をもつのが、この「誰でもメディア」時代のメディア像なのです。

 そして、同時に「誰でもメディア」は常に誰もが組成できるため、情報のデフレ状態からスタートすることを余儀なくされることでしょう。よって、ビジネスとして軌道に乗せるまでが相当に難しいであろうことが予測されます。ただし、それについてはキー局の番組数、衛星放送やケーブルテレビのチャンネル数、雑誌の刊行点数などを鑑みても、マスメディアであろうが状況は似たり寄ったりだと言えますが。つまり、あらゆるメディアが人間の有限資産である「時間」というパイを奪いあっているわけですから、その上位リストに並ぶことが、まずは“メディア力”の証左ということになってくるのでしょう。

ネットメディアは「忍耐」と「努力」が合い言葉

 「誰でもメディア」は出版業界のように、「営業がタコだから」とか「取次が書店に流してくれないから」などという言い訳が成立しづらいため、その成功は、真に自身の手によってもぎ取るべきものであり、“ラクして、まぐれ当たり”ということがあまり期待できない、“忍耐と努力”の世界でもあります。

 成功したブログメディアのひとつ、米「Gizmodo」発行人、Nick Denton氏は、ブログメディアが注目され始めた頃、米HotWiredの取材に対し、「儲からないから、(この業態に)近寄らないほうがいい」という旨の発言を行なっていましたが、競合者の参入を防ぐための方便であるという第三者の妬みを差し引いたとしても、割と本音に近かったのではないでしょうか。

グッドラック!(笑)

 かつて、印刷機や映像機材など、情報発信に必要な設備投資とそれらを格納すべき土地は、個人の財力では賄いきれないものでした。現在も、それらを所有することはできませんが、それに近いものならワンルーム程度の空間において所有することが可能になりました。

 PCや携帯電話、PDAの登場により、既得権を寡占できる人々や企業の周辺には、無数のナノ(極小)メディアが取り囲んでいます。テクノロジーが個々を目指して散らばったおかげで、形成されたメディア空間です。あとは、放送事業に必要な免許、出版のための取次制度、記者クラブなどといった垣根が取り除かれるか、もしくは形骸化して情報発信という枠組みと無関係なものになったとき、個人であれ、マスメディアのような大企業と「環境だけは」同等なものを手に入れることになるでしょう(というか、すでにネット空間はそういう場所ですが)

己の実存を賭けて発信せよ

 かつてのメディアがリアルな流通網や設備・人的資源に結びついたものであるとしたら、「誰でもメディア」は情報のフローこそがその総てであり、“発信すること=存在する”ということになります。逆に、発信をやめた途端に、メディアとしての痕跡をデータ以外ほとんど残しません。所在地はドメインだけであり、物理的には、使用していたPCやサーバを残して、きれいに跡形もなく消えてしまうわけです。

 すなわち「誰でもメディア」とは、メディアにおける実存主義なのです。
 かつては、名前だけで個をもたなかったメディアが、「私」を発見したのです。

 それは、資本、デバイス、インフラ、商流等によって規定されるメディアのことではなく、己の実存を掲げて発信を行なうメディアのことなのです。もしかしたら、この連載のタイトルにある「誰でもメディア宣言」とは、群れを離れ、個のみをもって情報発信し続ける新しい実存的メディアの台頭を「宣言」しているのかもしれませんね。

しれませんね、とか他人ごとみたいに書いたのは、タイトル命名者が担当編集者だからね(はあと)。

 そんな「誰でもメディア」の時代においても、ブランドというものは残り、大きく私たちの心理に影響を及ぼすことでしょう。しかし、例えば飛行機のチケット予約を行なうために、あるサービスサイト上で出発日時や行き先の国別から乗るべき航空会社を選ぶとき、検索結果のリストに並んだ英国航空とバージン航空を、その社史やブランド力で選ぶよりも、料金やサービス、または事故の有無などのデータで決定するユーザーのほうが多数かと思われます。

 同様に、検索エンジンやアグリゲーターが集積した情報のなかでは、発行ブランドの価値よりは、ニュースそのものの価値が優先されるのではないでしょうか。

ネットは玉石混交、でもクオリティメディアは成立する

 それは、内容の質を担保するということにはなりません。ブランドネームというのは、ある種の担保になります。しかし、「誰でもメディア」時代のコンテンツは、ポータルサイト等で無作為かつ更新順に並ぶことが多いため、装飾がきらびやか(扇情的な見出しなど)なものがアクセスを集め、内実の地盤沈下を引き起こしかねません。

 ところが、長い目でみれば、そんな見出しだけがきらびやかで中身が空虚なコンテンツを排除したり、スキップすることもシステム設計上は可能です(検索結果としてスクリーニングはあってはならないことですが、ここでは主観的なディレクトリーサービス等を想定しています)。あるいはDIGGやニューシングのようにニュースそのものを投票することができるわけですから、そんな玉石混合のなかでも、玉石内ヒエラルキーが形成されるのは時間の問題でしょう。

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