「ニッポンの底力」

ニッポンの底力

2008年6月2日(月)

「本当に“規格”が正しいの?
規格外を狙ったら高性能の鉄道レールが生まれた」

新日本製鉄の上田正治氏

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 米国やカナダの貨物列車用レールの規格では、素材に含まれる炭素の含有量は約0.8%と厳密に定められている。一般的に、鉄に炭素を加えると摩耗に強くなるが、この比率を超えるともろくなって割れやすくなるとされてきたからだ。鉄鋼業界では20年以上もの間、不文律としてこの数字が守られてきた。しかし、新日鉄はこのタブーに挑戦した。鉄に炭素を加えると、鉄の中に非常に硬い炭化物ができ、耐摩耗性を上げるのに有効と考えられていたが、一方で炭素が多すぎると炭化物が固まりになり、それが割れの原因となる。そこで、固まりができないような圧延、熱処理の方法を実験の繰り返しで編み出したのである。この技術開発により、北米貨物鉄道用レールの摩耗性は以前より最大で50%も高まった。

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【会社概要】

上田 正治氏

上田 正治氏 (43歳)
Masaharu Ueda
技術開発本部 八幡技術研究部 条鋼研究グループ 
主任研究員

新日本製鉄
東京都千代田区
(八幡製鉄所:北九州市戸畑区)

設立
1950年4月
資本金
4195億円
従業員数
1万4324人(2007年3月現在)
ワンポイント
1901(明治34)年に官営八幡製鉄所として創業。自動車用鋼板や鉄道用レールなどを製造する業界のリーディング企業

【その他の受賞メンバー(五十音順)】
●新日本製鉄/岩野克也、小林玲、関和典、鳥取秀郎、藤田和夫、松下公一郎、明賀孝仁 ●日本鋳鍛鋼/内野耕一


硬い炭化物が層状になってレールの耐摩耗性を高めていた

 ハリウッド映画で、果てしなく長く続く貨物列車が荒野を走るシーンを見た記憶はないだろうか。北米の貨物輸送の主力は鉄道である。広大な大陸の内陸部に物資を運ぶにはそれ以外に方法がなく、貨物列車はロッキー山脈をも越えて走る。1両当たりの重量は日本の貨車の2〜4倍に及び、1列車が百何十両もの数で編成されることも珍しくない。

 その強大な負荷にレールが悲鳴を上げる。日本国内向けレールより耐摩耗性の基準は高いが、それでも20トンもの荷重がかかった車輪が繰り返し通過することでレールは削られていく。そのため、数年程度の使用でどんどんレールを交換していく必要がある。

新日本製鉄八幡製鉄所
新日本製鉄八幡製鉄所

 新日本製鉄八幡製鉄所は、その北米貨物鉄道用レールを製造するトップメーカーである。

 「弊社で製造している鉄道用レールは国内向けが30%、北米向けが70%ですから、米国、カナダの貨物鉄道用レールの製造は主力事業と言えます。しかし、1990年頃から米鉄鋼メーカーが追い上げてきて、徐々にシェアが落ちてきた。そこでさらに付加価値の高いレールをつくる必要が出てきたのです」

 より摩耗に強いレールをつくるにはどうすればいいのか。上田さんが着眼したのは、鉄に添加される炭素の割合だった。

 「鉄に炭素を加えると硬くなって耐摩耗性が上がると言われ、入れすぎると脆(もろ)くなる、というのが製鉄業界の常識でした。そのため20年来、レールに含まれる炭素の含有量は米国の鉄道規格で約0.8%と定められていた。しかし、本当に炭素の量で耐摩耗性は変わるのか、本当に脆くなるのか、誰も実験したことがない。だから、規格外のレールをつくってみようと思ったんですね」

 新型レールの開発は1993年に始まった。炭素の含有率を変えた試験片の組成をラボで検証するうち、徐々にその構造が見えてきた。炭素は鉄の中で非常に硬い炭化物となり、圧延(熱と圧力をかけて延ばす処理)と熱処理されることで細く延びて層状構造をつくる。それが、耐摩耗性を高める効果を生み出していた。しかし、炭素が多いと炭化物が固まりになり、鉄と炭化物の境界でひび割れしやすくなっていたのだ。

 「つまり、固まりになるのを防いで同じように層状にできれば、以前よりさらに摩耗に強いレールができる。そう確信したのです」

 まずは0.9%。たった0.1%アップだが、従来の製造法でつくれば製品として出荷できないシロモノが出来上がる。ポイントは、炭素の含有量を高めた条鋼用鋼片(レールや建材の素材に使われる棒状の鋼片)に対して、どのように圧延・熱処理を施すかだ。

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「ニッポンの底力〜技術維新の立役者たち」は、地域の製造現場で日々ひたむきに技術や品質の向上を追求している人たちを表彰した第2回ものづくり日本大賞受賞者の技術を、テキスト記事と動画の組み合わせで、多角的にお届けします。ニッポンの根幹を支える技術維新の立役者たちの飽くなき挑戦を、ぜひご覧ください。

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