◎前号までのあらすじ
公認会計士の西郷による監査が終了した。
西郷は、ジェピーが関わっている不正な取引や利益の水増しを次々と達也に向かって指摘しただけでなく、達也が知らなかった経理部の沢口萌が会社の現金を着服していたことまで暴いた。
達也は斑目に萌の着服の事実を突きつけたが、斑目は動じない。しかも、西郷は監査の結果が不適正意見になるとは限らないと言う。
達也は不安に襲われていた。
西郷が帰ると、達也は缶コーヒーを買いに自動販売機の置いてある給湯室へ向かった。
「課長」
うしろから真理の声がした。
「今晩、お時間ありますか?」
真理のただならぬ表情を見て、何か伝えたいことがあるに違いない、と達也は直感した。
「わかった。じゃあ7時に根津で…」
達也は缶コーヒーを取り出すと、何事もなかったように部屋を出た。
寿司屋
「いらっしゃい。真理ちゃん、お待ちかねの団さんだよ」
達也を見て、寿司屋のオヤジは真理をからかった。
「まずビールを1杯」
と言って、達也はカウンターの真理の隣の席に腰を下ろした。
真理は達也のコップにビールを注いだ。
「監査、大変だったわね」
「斑目のやつ、何を考えているのかさっぱり分からん」
「どういうこと…」
「これで適正意見ですねって、喜んでいるんだ」
「で、会計士は?」
「1週間ですべての不正を見破った。すごい会計士だよ。でも、何か釈然としないんだ…」
達也はビールを口の中に流し込んだ。
「どういうこと?」
真理は達也がなぜ憮然とした表情でいるのかが分からなかった。
「西郷は、監査意見について何も言わないんだ」
「それはそうよ。まだ監査が終わったわけではないし、監査報告書のサインは今川先生でしょ」
真理の言うとおりだ。
「適正意見なんてあり得ないよ」
分かっていても、達也は不愉快でたまらない、といった表情で立て続けにビールを飲み干した。
そんな達也に向かって、真理はニコリと微笑んでこう言った。
「今日はね、おもしろい情報を2つ持ってきたの」
それは達也がそれまで見たことのない、いたずらっぽい笑顔だった。
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