◎前号までのあらすじ
このままでは、間中に会社を乗っ取られてしまう――。創業者の娘である早百合は病床にある母、財部ふみの枕元でジェピーの行く末を案じていた。ふみはジェピーの大株主でもあった。
早百合は亡くなった父親が信頼していた公認会計士、宇佐見の言葉が気になっていた。宇佐見は、ふみの病状が回復したことを誰にも告げてはいけないと言ったのだ。その言葉の真意が分からないまま、早百合とふみはジェピーを守る手助けをしてくれるのは宇佐見の愛弟子、団達也しかいないと直感していた。
達也は本社での監査の立ち会いを終えて愛知工場に戻った。しかし、西郷にも見抜けなかった不正があることに気づいていた達也は、それを暴くために行動を起こした。
静岡県湖西市・石渡倉庫
午前10時、東海道新幹線ひかりが浜松駅に停車した。2号車から大きいカバンを持った女性が降りて、改札に向かった。
「真理ちゃん!」
大柄の青年が改札口を出てきた女性に声を掛けた。
「団さんと一緒に会社を休むのはこれで2度目ね」
真理はうれしそうに言った。
2人は駐車場に向かい、達也が借りたレンタカーに乗って湖西市にある営業倉庫に向かった。
「今日は西郷さんも合流することになっているんだ」
「どうして西郷さんが来るの?」
真理はその理由がよく分からなかった。もう監査は終わっている。
達也が運転する車は、国道1号線に面したコンビニの駐車場で止まった。すると駐車中の小型乗用車の窓が開いて、運転席の青年が達也に声を掛けた。西郷だった。
「私についてきてください」
2台の車は、再び国道1号線を名古屋方面に進んだ。1時間ほど走ったところに、その会社はあった。門には「石渡倉庫株式会社」と書かれていた。達也は守衛にジェピー愛知工場の副工場長であることを伝えて、名刺を渡した。
ものの数分のうちに、業務部の鈴木真一と名乗る男がやってきて、3人を倉庫に案内した。
「これが御社からの預かり品です」
鈴木は山のように積み上げられた段ボール箱を指さして言った。その箱にはジェピーのロゴが印刷されていた。
達也は、カバンから「25日WWE社向け」と印字された出荷伝票のコピーを取り出した。そこに記載された製品名と数量が、倉庫に積み上げられた段ボール箱に書かれた製品の品名とロット番号と一致するかを確かめるためだ。
「間違いありませんね」
と、達也が言った。
今度は真理が、昨夜コピーした50万円の保管料請求書を鈴木に見せた。
「この請求書は、ここにある製品の保管料ですか?」
鈴木は請求書を見るとすぐに答えた。
「ここだけではありません。あっちの倉庫に積んである製品もそうです」
鈴木は3人を別棟の倉庫に案内した。
「3月の下旬に、石川部長が直々に見えて、会社の倉庫が満杯だから2カ月間ほど預かってほしいと頼まれましてね」
やはり、ワールドワイド電機(WWE社)には販売されていなかったのだ。
「今月の6月1日に弊社の愛知工場に移動するのですよね?」
と、達也が聞くと、鈴木は出荷予定を確認して言った。
「知らないんですか。昨日も石川部長がお見えになって、倉庫の改修工事だから、もう1カ月預かってくれと頼まれたんですよ」
鈴木は胸のポケットにしまった達也の名刺を取り出し「ジェピーさんですよね」と、怪訝な顔で念を押した。