「NEXT BIG THING キャピタリストが見る新潮流」

「飢えている人がいる時に、食べ物をクルマに食べさせる」バイオ燃料の“真面目な悩み”

風当たり強い新燃料は投資テーマになりうるのか?

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2008年7月17日(木)

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 NEXT BIG THING! ベンチャーキャピタリストはIT(情報技術)、バイオの“次に来る巨大潮流”を追い求めている。本稿ではNEXT BIG THING「クリーンテック分野」の投資で先行する海外(主に米国)事例を拙訳書『クリーンテック革命』(ファーストプレス)に触れながら紹介する。さらに、この分野はわが国にも先進的な事例がある。ニッポンの事例とニッポンの投資実務家の思いも語ろう。

 バイオ燃料に対する風当たりが強い。

 6月5日に出された国連食料サミット宣言で、バイオ燃料推進派の米国やブラジルは「バイオ燃料が食料危機に与える影響は小さい」というくだりを盛り込もうとしたが、途上国を中心にバイオ燃料普及に伴うトウモロコシなどの価格高騰に対する批判が強すぎた。結果、妥協の産物として「今後も国連食糧農業機関(FAO)などを中心に食料価格への影響を研究し、各国が対話を継続する」という表現に落ち着いたことは記憶に新しい。なんだ、こりゃ? まるで役人言葉だ。なに言っているのかさっぱり分からん。

人間が飢えている時に、人間の食べるべきものを自動車に食べさせてどうする?

 米国のトウモロコシ生産量は世界の4割。その2割以上がエタノール燃料に充てられるようになったため価格は急騰した。シカゴ商品取引所で2000年にトウモロコシ1ブッシェル当たり2ドルだったのが2008年2月には5ドル台になった。

 米国農務省出身でワールドウオッチ研究所を創設して地球環境問題に取り組むレスター・ブラウンは「世界の8億人が所有する自動車が、20億人の貧困層と食料資源を巡って争っている」と憤りを隠さない。地球温暖化対策として2005年から植物を原料にしたエタノールなどバイオ燃料の積極活用を掲げてきた南アフリカ共和国のルラマ・ジングワナ土地問題・農業相、穀物価格が上昇し国民の不満が高まる中、主食であるトウモロコシについて食料向けだけに使途を限定し、バイオエタノール向けには一切使わないと言明した(NIKKEI NET 2008年4月26日)。

 バイオ燃料は京都議定書で「カーボンニュートラル」と認められた。これはバイオ燃料の原料となるサトウキビやトウモロコシが生長する時に光合成をして大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収するので、これらを原料とする燃料を燃やした時に排出されるCO2が、生育過程で吸収されたCO2と相殺されるという考え方だ。

 このうまく言いくるめられたような理屈のせいで、国際統計データとしてのCO2排出量の計算からは化石燃料以外のCO2排出量が除外されている。こう表現されると、バイオ燃料を使いさえすれば化石燃料が節約できる分だけまるまるCO2排出が削減されるという誤解を与える。現に2006年にバイオマス燃料の利用促進を目的として閣議決定された「バイオマス・ニッポン総合戦略」ではバイオ燃料の利用量がそのまま原油の節減量として評価されている。

 しかし、この理屈からはバイオ燃料の生産過程(原材料植物の育成、伐採、運送、精製)における燃料消費とそのCO2排出が抜け落ちている。バイオ燃料の生産過程におけるCO2排出を考慮するとほとんどのバイオ燃料はカーボンニュートラルどころかむしろ、化石燃料だけの場合よりもCO2排出を増やしているという研究もある(東京工業大学 久保田宏教授)。

 また、例えばブラジルで食料と競合しない形で輸出用に大量のエタノールを生産しようとすると、新たに燃料作物栽培用の耕地として熱帯原生林を農地転換するしかない。現存の熱帯林は植物の生長と蓄積物の分解がバランスした状態にあるが、これを伐採することによって失われるCO2の吸収効果をバイオエタノールの化石燃料対比の正味CO2排出節減効果で相殺するためには40〜75年かかるとも言われる(同上 久保田宏教授の研究)。

 バイオエタノールの主原料であるトウモロコシは、米国が2005年の全世界生産量7.9億トンの4割に当たる3億トンを生産し、そのうち0.5億トン(世界の総輸出量の実に6割に当たる)を単独で供給してきた。その米国は2007年に0.6億トンをエタノール向けに転用した。2008年には2億トンが転換されると言われる。米国では補助によってエタノール用のトウモロコシ生産が優遇された結果、大豆や小麦の作付面積が減らされ、それらの穀物の市場流通が激減した。直接食料用ではない余剰生産穀物がエタノール転換されている事情や、気候不順による一時的不作による備蓄在庫の減少という事情を差し引いても、米国における大量のエタノール転換が世界的な穀物価格の急騰の要因であったことは間違いないと見られる。

世界のバイオエタノール生産量とトウモロコシの価格の推移

冷静に「バイオ燃料をめぐる技術動向」を見てみる

 食糧不安を背景として世界的に「バイオ燃料悪玉論」が盛り上がっているが、「一律にバイオ燃料はダメ」というのでなく、「ダメなバイオ燃料」と「よいバイオ燃料」を分けて考えるべきだ。日本は非食用作物を原料とするバイオ燃料の開発を比較的早くから進めてきたし、幾つかの萌芽が出ている。

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著者プロフィール

飯野将人(いいの・まさと)

飯野将人 大手金融機関、米系コングロマリットといった大企業勤務の後、日米複数のスタートアップの経営に参画。その後2003年から2012年まで国内VCにてベンチャー投資に取り組む。2012年4月より西海岸発のハイテクベンチャー、ナント・モバイル取締役副社長に就任。傍ら個人的な活動として「顧客開発モデル」を中心とした講演、レクチャーを精力的に行っている。東京大学法学部卒。米国ハーバード大学経営大学院修了。訳書に『クリーンテック革命』(ファーストプレス)がある。

堤 孝志(つつみ・たかし)

堤 孝志人 総合商社、シリコンバレーのVCを経て、2003年から国内のVCに勤務。日米・アジアにて幅広くベンチャー投資活動を行う。その傍ら、スティーブ・ブランク氏とは純粋個人的な興味から渡りをつけ、その著作である「The Four Steps to The Epiphany」を共訳し「アントレプレナーの教科書」として翔泳社から出版したことをきっかけに、個人的な活動として「顧客開発モデル」を中心とした講演、レクチャーを精力的に行っている。東京理科大学工学部卒。McGill大学経営大学院修了。その他訳書に『クリーンテック革命』(ファーストプレス)がある。

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