「ニッポンの底力」

ハンマー1本で、歴代新幹線の「顔」をつくる
独自の「打ち出し加工技術」を持つ匠

山下工業所の山下清登氏

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2008年7月14日(月)

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 1964年、アジアで初めてのオリンピックが開かれたこの年、“夢の超特急”と称された新幹線が営業運転を開始した。10月1日、東京駅を発車した一番列車0系「ひかり1号」の、独特の流線形をした先頭車両。あの「顔」は、山下さんら熟練の職人がハンマー1本で仕上げたものだった。以来、現在東海道・山陽新幹線の主力となっている700系や台湾新幹線、リニアモーターカー実験車両まで、同社はこの「打ち出し加工技術」を駆使して数々の車両を世に送り出してきた。外板だけではない。運転席の天井、窓枠、運転台関連部品を始め、そこここに同社の経験と技術が反映されている。世界に誇る超高速鉄道は、今日も匠の技に守られて疾走しているのである。

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【会社概要】

山下清登氏

山下清登氏 (72歳)
Kiyoto Yamashita
代表取締役

山下工業所
山口県下松市

設立
1974年12月
資本金
1000万円
従業員数
35名(2007年10月現在)
ワンポイント
車両製造部門で培った技術力を生かして、半導体製造装置部品の製造、薄板精密板金事業も拡充

【その他の受賞メンバー(五十音順)】
井上隆行、国村次郎、澄川隆士、藤井洋征、山下靖紀、山本淳


新幹線の歴史と共に磨き上げてきた、打ち出し加工技術

工場内に鎮座する製作途上の最新型(N700系)新幹線の「顔」(JR東海納めの運転訓練シミュレーター装置)

工場内に鎮座する製作途上の最新型(N700系)新幹線の「顔」(JR東海納めの運転訓練シミュレーター装置)

 カーン、カーン。薄暗い、どうお世辞を言っても町工場にしか見えない建物に、アルミ板をハンマーで叩く甲高い音が響きわたり、工作機械がうなりを上げる。だが、その傍らに目をやると、あたかもパソコンの3D画像から抜け出してきたかのような、流線形の金属の骨組みがさりげなく鎮座しているではないか。完成すれば、“次代新幹線”N700系の運転訓練用シミュレーターになるのだそうだ。伝統的な職人の世界と最新鋭の新幹線。このアンバランスな風景が、同社の“立ち位置”を語って余りある。

 創業は新幹線が開業する1年前の63年。蒸気機関車部品を打ち出し加工で仕上げる技を、現在の日立製作所笠戸事業所に見込まれて鉄道部品の世界に入った山下さんが、「0系新幹線の先頭車両をつくるために」創業したのだった。

 「自分のつくった0系が初めて走った時のことは、今でも忘れられません。乗りたかったけど、忙しくてねえ。女房が『お父さんがつくったんだ』って、私より先に乗りに行ったのを覚えています」

「叩く」だけでなく「曲げる」技術もお手のもの。運転室内部の部品などにも、同社の手づくりによるものが数多く使われている

 以来、ほとんどの新幹線の製造にかかわり、同事業所に納入した分だけで330両を超えた。新幹線以外にも特急電車、地下鉄、モノレール、リニアモーターカーの実験用車両なども製作。台湾や中国の新幹線も手がけている。

 ところで、0系が“素直な”流線形だったのに対し、今の新幹線は「のぞみ」の主力である700系に象徴されるように、前から見ると平べったく頬を膨らませたような、曲面が重なった複雑な形状をしている。あのフォルムが手作業の産物だというのも、にわかには信じがたい。

 「先端部、屋根、側面といったブロックごとに、数十枚のアルミ板を打ち出して溶接するのです。そりゃあ、設計図どおりに仕上げるのは大変ですよ。ハンマーの跳ね返り具合とか、音とか……それなりの経験を積まないと、なかなか思うようにはいきません。一人前になるまでには、7、8年は必要ですね」

 ちなみに1両分の先頭部分をつくるのには、新幹線クラスの大型車両の場合、2週間を要する。

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著者プロフィール

瀬川 明秀(せがわ・あきひで)

日経ビジネス副編集長。



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「ニッポンの底力〜技術維新の立役者たち」は、地域の製造現場で日々ひたむきに技術や品質の向上を追求している人たちを表彰した第2回ものづくり日本大賞受賞者の技術を、テキスト記事と動画の組み合わせで、多角的にお届けします。ニッポンの根幹を支える技術維新の立役者たちの飽くなき挑戦を、ぜひご覧ください。

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 2005年にスタートした総理大臣表彰「ものづくり日本大賞」。日本の文化や産業を支えてきた“ものづくり”を新しい時代に継承・発展させていくため、ものづくりの現場を支える人々を顕彰し、広く世の中に伝えるために創設された賞です。評価の対象となるのは、技術と品質向上に対する飽くなき追求の結晶であり、日本が誇れる大きな財産。その技と心意気を称え、世界に発信していきます。本表彰制度は、経済産業省、国土交通省、厚生労働省および文部科学省の4省が連携し、隔年実施しています。

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