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でん粉から“夢の糖質” トレハロースの量産化~偶然から成功を見つけ出す

林原生物化学研究所の福田恵温氏

  • 野村 滋

  • 日本機械工業連合会

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2008年7月22日(火)

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 トレハロースは糖質の一種で、おにぎりや餅菓子の軟らかさを保ったり、肉や魚の臭みを消したり、臓器移植で臓器を運搬する際の劣化を防いだりといった様々な効果を持ち、非常に応用範囲の広い糖質である。従来は、トレハロースを持つパン酵母菌をつぶして抽出するなどの方法しかなかったため、不純物が多く精製にコストがかかり、1キログラム当たり3万~5万円もする高価な素材だった。しかし、同社は1991年に、土壌中の微生物からでん粉をトレハロースに変えるアルスロバクター属の菌を発見。その菌が生産する酵素を利用する量産技術を確立し、1キログラム当たり300円と価格を100分の1にまで下げることに成功。食品分野においてトレハロースの爆発的な普及に貢献している。

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【会社概要】

福田恵温氏

福田恵温氏 (55歳)
Shigeharu Fukuda
常務取締役
研究センター担当
農学博士

林原生物化学研究所
岡山県岡山市

設立
1970年9月
資本金
5000万円
従業員数
254人(2007年10月現在)
ワンポイント
糖質の研究開発では、日本でもトップクラスの実績を持つ研究開発型企業

【その他の受賞メンバー(五十音順)】
●林原生物化学研究所/久保田倫夫、渋谷孝、茶圓博人、丸田和彦 ●林原/大隅博、神戸三幸、杉本利行 ●林原商事/片桐直彦、齊藤典行


土壌中から、新米研究員がいきなりとんでもない菌を発見

 コンビニのおにぎりを手に取って原材料表示を見れば、そこにトレハロースという名前を見つけられるはずだ。「復活の糖」と呼ばれるトレハロースは、乾燥や冷凍から細胞を守る不思議な物質で、ご飯や餅の弾力を保ったり、肉や魚の臭いを消したりする。

トレハロースは細胞を乾燥や冷凍から守る「復活の糖」。糖質ではあるがほとんど甘さはなく、コーヒーに入れると苦みを消すという不思議な効果が
トレハロースは細胞を乾燥や冷凍から守る「復活の糖」。糖質ではあるがほとんど甘さはなく、コーヒーに入れると苦みを消すという不思議な効果が

トレハロースは細胞を乾燥や冷凍から守る「復活の糖」。糖質ではあるがほとんど甘さはなく、コーヒーに入れると苦みを消すという不思議な効果が

 「100年以上も前からトレハロースの存在は知られていましたが、ある種のパン酵母の菌体をつぶして抽出するなどの製造方法しかなく、精製に非常にコストがかかるし量産も難しいため、1キログラム当たり3万円以上もしていました」

 この“夢の糖質”トレハロースの量産に成功したのは、偶然に近い出来事がきっかけだった。

 同社は、微生物を使ってでん粉から様々な糖質をつくる研究分野では日本のトップランナーだが、1970年代から80年代にかけて研究は停滞し、糖質の学会でもすべてやり尽くしたかのような雰囲気が漂っていたという。

 「しかし、弊社にとって糖質事業は生命線で、このまま研究が終焉を迎えては会社の存続にもかかわる。そこで90年代初めから、糖質研究者30人のうち25人に研究中のテーマを捨てさせ、でん粉に特化した研究テーマに取り組ませた。するといきなり、配属2カ月の新米研究者が、でん粉をトレハロースに変える菌を土壌中から発見したんです」

 新人が世紀の大発見をしたことで、社内は大騒ぎになった。土壌中には1グラム当たり数億個もの菌が存在し、ほとんどの菌の働きが解明されていないが、その中から偶然にもとんでもない菌を発見したのである。

でん粉からトレハロースを製造する実験用プラント。50℃前後で作用する酵素の発見で、制御しやすくなった

でん粉からトレハロースを製造する実験用プラント。50度前後で作用する酵素の発見で、制御しやすくなった

 「ビギナーズラックもあったと思いますが、新米で先入観がなく、一つひとつまじめに調べたから見つけられたとも言えます。トレハロースは特殊な分子構造で、でん粉の構造とは大きく異なるので、専門家ほど『でん粉からできるわけがない』と思い込んでいた」

 この菌の生産する酵素を利用することで、でん粉からトレハロースを直接製造できるようになり、劇的なコストダウンを実現。1キログラム3万円以上という高価な糖質を、300円で提供できるようになったのである。

 ただ、この菌から抽出した酵素には1つ問題があった。作用する温度が45度前後のため、酵素をでん粉に作用させている間に、雑菌が繁殖する危険があり、製造現場はその制御に苦労していた。第1の菌の発見と同時に、80度前後で作用する酵素を有している別の菌を温泉中から発見していたが、遺伝子組み換え法を用いなければ量産化が難しいため、断念していた。ほかに菌はないか。研究者らは再び菌の探索に没入した。

 第3の菌もすぐに見つかるかと思いきや、世の中、それほど甘くはない。本当の研究の正念場はここからだった。

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