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 夏の陽でさえ傾き始める18時過ぎ。東京都新宿区にある早稲田大学の国際教養学部では当日の最終講義も終わり、友人と談笑しながら帰宅したり、アルバイト先へ急いだりする学生たちで、校舎の1階があふれ返る。

 同じ頃、国際教養学部教授のカワン・スタントは、自身の教授室でぐったりと疲れた体に最後のムチを入れ、学生たちが書いた授業の感想文に一枚一枚、ゆっくりと目を通していた。学生たちが自分の講義で何を感じ、それをどう表現しているのか。黄色の蛍光マーカーを握り締め、英語で書かれた感想文の気になる個所にはどんどん印をつけていく。

 「素晴らしいよ。並木さん、また新しい発見をしたね」

 感想文を読みながら、スタントは学生たちが授業を通じて何かを感じ取ったことを我が事のように喜ぶ。その表情からは、いつしか疲れが薄れ、笑みであふれていた。

15分以上は欠席扱い、出席率7割未満は単位なし、追試なし

カワン・スタント(Ken Kawan Soetanto)<br>早稲田大学国際教養学術院教授<br>早稲田大学臨床教育科学研究所所長

カワン・スタント(Ken Kawan Soetanto)
早稲田大学国際教養学術院教授
早稲田大学臨床教育科学研究所所長

1951年インドネシア・スラバヤ生まれ、57歳。74年に来日し、エレクトロニクス技術を学ぶ。77年に東京農工大学の電子工学科へ入学。卒業後、東京工業大学、東北大学など4つの大学で「工学」「医学」「薬学」「教育学」の博士号を取得。88年、米デュレクセル大学工学部準教授、90年、トーマス・ジェファーソン医科大学医学部準教授を兼務、93年に再来日。桐蔭横浜大学工学部教授に就任し、「学生のやる気を引き出す」教育法を確立。2003年より現職。経済産業省産業構造審議会21世紀経済産業政策検討小委員会委員などを務める。米国超音波医学会、米国音響学会、日本音響学会、日本超音波医学会などで受賞歴がある。著書に『「できない大学生」たちが、なぜ、就職で引っ張りだこになったか』(三笠書房)などがある。
(写真:菅野 勝男、以下同じ)

 「ボクが全力を投じて行った講義で、学生たちは何を感じてくれたのか。それをフィードバックしてもらうたびに、教師としてのモチベーションがぐっと高まる。毎日、新たな発見がある」と、スタントは語る。中学校や高校の担任の先生ならいざ知らず、ゼミ以外の講義で学生たちの名前を一人ひとり覚えている大学教授が何人いるだろうか。

 この教授らしくない姿は、教壇に立った時にも表れる。原則として、講義では毎回出席を取り、15分以上遅刻すると欠席扱いになる。出席率が7割に満たないと単位は与えない。教室内では私語は厳禁、再試験はなしの方針を貫く。授業の運営ルールについては、学生に有無を言わせず押しつけるが、講義の中身は異なる。一方的に、自分の考えを述べて終えることは、けしてない。

 講義の中心は、学生の意見や主張を引き出すのを主眼にしている。講義のほとんどは、学生への質問、学生による発表と学生同士の質疑応答などになっている。そして講義の最後には、冒頭に紹介したように全員に紙を配って感想文を書かせる。

 学生が自分の講義で何を学び、どう感じたのか。講義が終わると、スタントはすぐに感想文に目を通し、学生の理解度や心境をすかさずチェックする。学生が疑問に感じていることがあれば、素早く回答することを心がけている。「誰がどのようなことに感動した」というリアクションは次の講義で発表し、みなで共有する。常に学生に興味を抱き、学生たちと真剣にぶつかり合うことで新たな感動が生まれると、スタントは信じている。

ビジネスの現場も着目する「スタント・メソッド」

 凡庸な教師はただしゃべる。
 良い教師は説明する。
 優れた教師は自ら示す。
 そして偉大な教師は心に火をつける。

 19世紀の英国哲学者、ウィリアム・アーサー・ワードの言葉だ。

 スタントの教育法は、真剣に相手と向き合うことで、相手の心を奮わせて、眠っている潜在的な能力を引き出す。これはアーサー・ワードの言う、心に火をつけるやり方だ。

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