「シリーズ 日本の針路」

日本は無視されている、に怒りはないのか

政治がもたらす閉塞感の打破に動く
言論NPO 工藤泰志代表に聞く

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2008年8月10日(日)

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 前回は、日中が本音で議論し合える民間主導のプラットフォーム作りの狙いについて聞いた。政治が機能不全に陥り、政府間の外交チャンネルが途絶えても、民間レベルでの対話がしっかりと機能していれば、海外における日本の存在感の構築につながる、という強い思いが言論NPOの工藤泰志代表にはある。

 ジャパンパッシングという古くて新しい言葉には、いまや慣れっこになってしまった感があるが、工藤代表はそうした状況を放置してはならないと訴える。日本は、世界が普遍的に直面する課題に対して、課題解決のリーダーシップを取れる能力が高い、と信ずるからだ。

 世界の中で日本の存在感が薄れている原因は、政治の機能不全が大きいという工藤代表。そうした状況から脱するには、まず国民一人ひとりが課題に向き合おうと努力することが必要だと主張する。

(聞き手は日経ビジネス オンライン副編集長 真弓 重孝)


 ―― 工藤さんは、ジャパンパッシングという状況を人一倍憂いているように見えますが。

 工藤 国内では「GDP(国内総生産)では世界第2位」とか「もの作りでは、まだ中国や韓国には負けていない」というような議論がかまびすしいですが、海外ではもう日本に関心がないというのが現実なのです。言論NPOの理事に、イェスパー・コールという以前メリルリンチ日本証券のチーフエコノミストだった人物がいます。彼はこんなことを述べています。

工藤泰志(くどう・やすし)氏
言論NPO代表

工藤泰志(くどう・やすし)氏
言論NPO代表

1958年生まれ。横浜市立大学大学院経済学修士課程修了後、東洋経済新報社入社。「金融ビジネス」編集長、「論争 東洋経済」編集長などを経て、2001年11月に言論NPO創設。主な著書に『図解 「土地神話」のゆくえ』(東洋経済新報社)がある
(写真:菅野 勝男)

 「もう世界は、日本なんて相手にしていない。タイタニックですらない。タイタニックは沈んだ時に悲しまれたが、日本は沈んでも誰も悲しくもない」と。日本人にとっては到底、容易に受け入れられない発言ですが、日本は世界でもう話題にすらならない存在になっている。

 コール氏の言葉だけではありません。例えば米国の外交専門誌、フォーリン・ポリシ―が選ぶ「世界の知識人100人」には、かつては日本人が1人か2人必ずいたものですが、2008年度版では日本人の名前が消えました。アジアでは、ほとんどが中国人やインド人です。

 世界経済フォーラムが毎年スイスで開いているダボス会議に行くと、日本のコーナーには、なかなか人が集まらない。どれだけ日本はすごいとアピールしたところで、関心がないのです。世界には日本の声だけでなく、姿も見えない。これは単なる英語力の問題ではなく、語るべきものもないからです。

 こうした状況を問題だ、と思うのは、海外のメディアで日本の将来に疑問が提示されても、不感症なのか、日本では話題にすらならないことです。本来なら、「なにくそ」と思って、行動しないといけないはずなのですが、政治家や有識者など政策形成に参加している人も含め多くの日本人が、世界に対して価値を生み、発信することを長い間、怠ってきたのです。

 世界の課題に挑戦するどころか、国内問題すら解決できない。ジャパンパッシングが起きているのは、経済成長が相対的に落ち込んでいるからだ、と見られがちですが、それだけではないのです。

 ―― 日本人の発想や行動が内向きになっているために起きている、ということでしょうか。

 工藤 ジャパンパッシングという言葉は、十数年前から使われていました。中国の台頭も、予想されていました。そんな世界の大きな変化の中で日本は何をしてきたかということです。確かに、国内の政治改革や構造改革には取り組んではきましたが、その実行は遅く、新しい経済体質や政治を作り上げたわけでもありません。 

 政治では、小選挙区制が導入され2大政党体制に向けて政治は動きましたが、日本の未来や課題解決で政党の競争が始まったわけでも、それが国民に提起されたわけでもありません。経済は金融危機はなんとか乗り越えましたが、新しい成長基盤となる資本市場、労働市場の改革は進まず、税制の抜本改革も何が実現したのでしょう。これらの改革によって、日本は将来的に世界の経済や議論をリードできる国に再生した、と言えるでしょうか。

 例えば、日本で急速な高齢化が進んでいる中で、税制、医療、社会保障、教育などのシステムは将来に十分、対応し得るものに組み替えられたわけではなく、むしろ解決が先送りされたままです。全体としては、新たな時代に必要な再設計はほとんど進んでいません。少なくとも国際マーケットの認識は、日本の改革は不十分というものです。

 今の日本に閉塞感があるのは、今すぐに取り組まなくてはならない課題があることを理解しているのに、政治家はもちろん国民の中にも、強い意思でそれに立ち向かって解決しよう、とする人が不足しているからでしょう。

 ―― 工藤さんご自身は、日本の閉塞感を打開するためにどのようなことをされているのでしょうか。

 工藤 言論NPOでは4年前に、各界の有識者の参加によって日本の「パワーアセスメント」をしたことがあります。パワーアセスメントとは、日本の強み、弱みを様々な角度から検証するものです。日本の将来構想や戦略をある方法論をもとに組み立てようと作業を行ったのです。大きな視点から描くには、強さ、弱さをきちんと知る必要があります。

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著者プロフィール

広野 彩子(ひろの・あやこ)

日経ビジネス記者。1993年朝日新聞社入社、阪神大震災から温暖化防止京都会議(COP3)まで幅広い取材を経験した後、2001年1月から日経ビジネス記者に転身。国内外の小売・消費財・不動産・マクロ経済などを担当し、『日経ビジネスオンライン』、『日経ビジネスマネジメント』(休刊)の創刊に携わる。米プリンストン大学ウッドローウィルソンスクールに留学し2005年に修士号を取得(公共政策)。近年は経済学コラムの企画・編集、マネジメント手法に関する取材、執筆などを担当。

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