◎前回までのあらすじ
ジェピーの再建を社長の財部益男から託された達也は、取締役経理部長に昇進した。一方、ジェピーの間中隆三専務と斑目淳次経理部長は、粉飾決算の首謀者として、会社を追われていた。
再建は、組織と人材の一新から始まった。社長の益男は愛知工場長とは名ばかりの閑職に追いやられていた三沢充を社長室に呼び、達也と3人で新たな布陣について話し合っていた。
製造部、営業部、経理部、人事部4つの部門からなる新しい組織では、三沢は取締役製造部長となった。新設された人事部の部長には、関東ビジネス銀行から来た笹岡祐彦が就任した。関東ビジネス銀行の丸亀支店長の強い意向が、笹岡の人事の背景にあった。
一方、達也は経理部の細谷真理から重大な話を聞いた。それは、会社を追われた間中が60億円もの連帯保証をしていたという事実だった。
根津の寿司屋
「さて、僕ら2人の昇進祝いをしようか」
達也は真理をいつもの根津の寿司屋に誘った。60億円という金額を聞いて動転したが、まずは真理からもっと詳しい話を聞いてみなければ、事の真相は分からない。達也は気を取り直して真理と寿司屋に向かった。
2人はカウンター席に腰を下ろすと、冷酒を注文した。
「団さんってホントにお寿司が好きなんですね」
「代わり映えしないけど、君と気兼ねなく話せるのはこの店しかないからね」
それを聞いた主人のゲンさんが「それはないよ団さん。うちのネタはいつも特別だよ。これ食ってみな」と、礼文島でとれたという、バフンウニを手巻きにして達也に直接渡した。大きな口を開けてほおばると、上品な甘みが口の中に広がった。
「最高ですね」
「だろっ」
ゲンさんがうれしそうに微笑んだ。
「君が課長になるのを受け入れてくれて、感謝しているよ」
「もう団さんたら。私は一度、社長の目の前で断ったのよ」
真理はふくれっ面をして見せた。その表情は迷惑そうでもあり、反面、うれしそうでもある複雑なものだった。
「でも、仕方ないわ。団さんの頼みだもの」
真理はそう言いながらバッグから携帯電話を取り出し、受信メール一覧を達也に見せた。そこには<お願いだ。頼む>という件名の、達也からのメールがズラリと並んでいた。
「これみんな団さんからのメールよ。団さんからこんなに頼まれたら、受けるしかないじゃない」
達也に笑顔を向けた真理の声は、今度は紛れもなく喜びを含んでいた。そして、どこか誇らしげでもあった。
「そう言ってもらえるとホッとするよ」
おいしそうに寿司をほおばる真理の横顔を見ていた達也だったが、真理にはどうしても今、聞いておかなければいけないことがあった。
「ところで、さっきの話の続きだけど…」
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