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第3講 内発的動機づけが人を変える

2008年9月20日(土)

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 「僕は音楽で食べていきたい。だから大学を出た後、企業への就職はせずに一から音楽の勉強をしたいんだ」

 早稲田大学国際教養学部に通う4年の男子学生、小林利央奈は昨年10月、ずっと心の奥底に溜まっていた自分の素直な気持ちを両親に伝えた。

 1年前の大学3年生の秋。周囲は就職活動に力を注ぎ始める時期に当たる。好況による売り手市場が続いた就職戦線に陰りが見え始めており、両親は息子の就職先を気にしていた。

 そんな時に聞かされた「就職しない」という進路に、両親は思わずたじろいだ。だが、「就職するのが嫌」という現実逃避からの決断ではない。自らやりたいことを見つけ、それに向かって突き進みたいという息子の熱い気持ちは、親を納得させるのには十分だった。

 「周りのみんなとは違う、就職しない進路を親に伝えるのに、当初は躊躇いがあった。でも、それを自信を持って両親に伝えることができたのは、スタント先生の言葉で自分を変えられたからだ」と小林は語る。

 早稲田大学国際教養学部教授のカワン・スタントは、ゼミ生の小林に対し、どのようにして背中を押したのか。

米国で感じた「目的意識のない自分」

学生の発表に真剣に耳を傾けるスタント
(写真:菅野 勝男)

 どれだけ周囲に反対されても、自分の意志を貫き通し、行動を起こして結果を出せば、必ず周囲は納得してくれる。それを知っているからこそ、小林が見つけた「自分の道」を応援しなければいけないとスタントは感じていた。

 小林が自分の将来を真剣に考えるようになったのは2年前のこと。米国ウィスコンシン州にある大学へ留学した際に、日本と米国の学生の「やる気」の差を感じたことに始まる。

 払った授業料以上の知識をつけたいと、がむしゃらに勉学に勤しむ米国の大学生たち。「ボクは将来、会計士になる。そのために今この大学で勉強を頑張っているんだ」――。そう平然と語る米国の学生に対し、小林は自分の将来について何も語れなかった。そして、何のために大学へ通っているのかすら分からなくなった。

 大学に入った理由を自分なりに考えてみる。出てきた答えは「受験勉強が得意だったから」。課されたお題目をクリアしていく作業は、人よりも優れている。しかし、当時は大学合格という目標があったが、その後の目標を自分で決めろと言われた瞬間に、何も見えなくなってしまう。

 有名大学を卒業すれば、安定した大企業に入って平穏な生活を送ることができる。頭にはそれくらいの考えしかなかった。自分は将来何になりたいのか、何をしたいのか。目標が定まらない中、大学に高い授業料をかけて通っているのは何のためなのだろうか。自分がやりたいこと、突き詰めたいことは何なのか――。

 日本の大学で学んでいた時には、誰からも問われなかった。

 小林は考え抜いた末に、「音楽」という答えを導き出した。歌を歌うことが何よりも好きで、これを徹底的に進化させたい。そう考えるようになった瞬間、学びたい意欲が体の底から泉のように湧き出してきた。

 一方で不安もあった。名門大学を出て、音楽の道に進むようでは、親や周囲の期待に背いてしまうのではないか。米国では通用する考えも、日本に帰ればきっと否定されてしまうだろう、と。

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「第3講 内発的動機づけが人を変える」の著者

白壁 達久

白壁 達久(しらかべ・たつひさ)

日経ビジネス記者

2002年関西大学経済学部卒業後、日経BP社に入社。日経ビジネス、日経ビジネスアソシエを経て、2015年から香港支局長としてアジア全体をカバーする。2016年8月から日経ビジネス記者に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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