日本は世界で30位の国
「835万人」―これが何の数字か、お分かりになるだろうか。東京23区の人口(2008年7月現在)にも匹敵するこの数字は、実は2007年に日本を訪れた外国人の人数なのである。そしてこの人数は、2010年には1000万人を突破すると予測されており、さらに日本政府は2020年に2000万人、という目標を新たに掲げている。この数字だけ見ていると、非常に多いように見えるが、世界から見ると実はそれほどでもないのだ。
観光先進国と言われるフランスを訪れた外国人の人数は、同年で約8190万人(フランス観光庁発表)。もちろん世界第1位であるが、その数は日本の約10倍、実にフランスの総人口の1.3倍にも当たる。彼我の差はどこにあるのだろうか。陸続きか、海を越えねばならないか、の差はあったとしても、世界中の旅行者の半数が航空機を使って移動していることを考えると、10倍もの開きには説明がつかない。確かに、フランスには日本の2倍の世界遺産があるが、世界遺産が日本の半分しかないスイスにも、外国人観光客数で日本は負けているのだ。UNWTO(世界観光機関)の2006年「旅行目的地世界上位40カ国」によれば、日本は、タイや香港、マカオ、シンガポールといったアジア勢よりも下位の30位となっている。
外貨獲得。それっていったいどこの国の話?
少子高齢化に歯止めがかからない中、日本の総人口は2004年をピークに減少し始めているが、実は騒がれている割に総人口減少は緩やかである。これは総務省発表の将来人口推計でも確認できる。では、なぜこのように騒がれているのだろうか。それは、日本経済の将来を左右する労働人口が総人口よりも急速に減少するためである。
先述の将来人口推計を基に試算すると、10年後の労働人口(20〜60歳の男女)は全人口の半分を割り込むと推測される。現在、この年代に属する男女は総人口の55%強存在するが、それがわずか10年で5%強、人口にすると600万人弱が、労働市場から消えることになるのだ。労働人口は、消費人口の多くを占める。この事実が、様々な産業の成長を阻害する大きな要因となるということは、あえて言うまでもないだろう。
そんな中、数年前から観光立国に向けた動きが始まっている。「観光で外貨獲得」というのは、発展途上国だけの話ではない。日本にとっても切実な問題となっているのだ。2007年には観光立国推進基本法が施行され、小泉純一郎内閣によるビジット・ジャパン・キャンペーン、安倍晋三内閣がブチ上げたアジア・ゲートウェイ構想と続き、さらに今年前半には観光圏整備法、歴史まちづくり法施行が閣議決定され、10月1日には観光庁も発足した。
一見、観光だけと捉えられがちな訪日外国人誘致だが、実はその影響は観光にとどまらない。観光および観光客がもたらす経済効果は、政府試算によれば1000万人で、GDP(国内総生産)の1%にあたる5兆円にも上る。例えば、アジアを中心とした訪日外国人に人気の高いバーバリーのブルーレーベルは、国内の百貨店やメーカーの売り上げ拡大に一役買っている。
しかし、影響はこれだけではない。この売り上げ拡大は、その生地を織っている岐阜の織機企業や、そこに糸を卸している長野の企業の売り上げにも大きな影響を与えている。西陣織の衰退によってあえいでいた織機企業にとっては、まさに「救いの神」なのである。
人口減少によって、そもそもの購買人口が減少していく日本にとって、このような経済効果をもたらす訪日外国人は、とても魅力的だ。しかし、こういった観光客に魅力を感じるのは、当然のことながら日本ばかりではない。16億人弱もの人々が世界を交流すると予測されている2020年、日本の掲げた訪日外国人数は2000万人と全体のわずか1.25%である。すでに予測されている2010年の1000万人では世界の観光客到着者数の1%にも及んでいない。それでもなお、日本は各国を相手に戦わなければならないのである。

日本人の海外旅行成長の陰にあったもの
訪日外国人誘致の歴史は古く、すでに1893(明治26)年には外客誘致を目的とした「喜賓会」が設立されている。お隣の国、中国の故毛沢東国家主席が誕生した年である。その19年後の1912年にはジャパン・ツーリスト・ビューロー(現在のJTB)が設立されたが、観光目的での海外旅行が解禁されたのは、さらに50年以上経った1964年。しかし、先行していたはずの訪日外国人数と日本人海外旅行者数は、大阪万博が開催された1970年に逆転。海外旅行解禁からわずか6年での逆転劇であった。そして、2007年には訪日外国人835万人に対し、海外旅行者は1730万人と2倍以上にも差が広がっている。
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