2008年という年が、このような終わりを迎えるとは、誰もが想像できなかったことだろう。米国の象徴として君臨してきたGM(ゼネラル・モーターズ)が瓦解寸前の状況に陥ったように、米国発の金融危機は金融市場から実体経済に影響を及ぼしている。
この混乱の元凶となったサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)や証券化商品を、世界で最も厳しい米国の証券規則、企業改革(SOX:サーベンス・オクスレー)法による内部統制報告制度、厳格な会計監査は防げなかった。
米国は、2002年のワールドコムの不正会計に端を発し、公開企業の財務報告の強化が進められた。筆者はこの5年間、その真っただ中に身を置いてきた。
米国の諸制度は、そもそも金融危機を防ぐ目的で設定されているものではないが、米国の資本市場は「公正であること」を徹底して追求してきた。そこに従事してきた身として、今回の惨状にはいろいろと考えさせられる。米国の資本市場にはいったい何が足りなかったのだろうか。
SOX法は不況の原因?
「SOX法は意味がなかったばかりではなく、むしろ金融危機の一因」
在シリコンバレーのIT(情報技術)系コラムニスト、ジョン・ドボルザークは「SOX法の施行でベンチャーが上場をしにくくなり、株式市場に魅力がなくなった結果、余剰資金がサブプライム商品などのハイリスクな金融商品に流れたことが、今回の経済危機の原因の1つではないか」という論調を展開している(海部美知さんのブログで紹介されているポッドキャストによる)
こういう考え方は、ベンチャーの聖地であり、SOX法批判の意見が根強かったシリコンバレー住民にとっては受け入れやすいのだが、私見では、ちょっと賛成しかねる見解だ。まず、当連載2007年12月「迫り来る“大公開時代”にどう対応する」で紹介したように、2000年以降、米国内市場で新規に株式を公開した企業数は、2002年に70社、2003年に68社となって底を打った後、SOX法適用初年度の2004年には216社に回復し、2005年に194社、2006年に198社となった。2007年には株式公開は再度過熱をし、年間250社以上が株式を公開した。SOX法が理由で株式公開をあきらめたベンチャーがそれほど多いとは、統計からは読めない。
そもそも、優良で気概のあるベンチャー企業であれば「SOX法が面倒くさい」という理由だけで、本当は必要な株式公開をあきらめたりなどしない。これは、自分がかかわってきた米国企業を見ていて感じたことだ。
また、原油高騰の結果だぶついたオイルマネーやアジア各国で積み上がった外貨準備など、世界的な過剰流動性は、米国の新規株式市場で吸収できる量だったとも思えない。ハイリスク商品に投資資金が向かってしまったことは、ハイリターンを求める個々の投資家の判断の問題であり、SOX法という制度とは全く関係のないことだ。
SOX法は「経営を監視する」わけではない
もちろんSOX法の限界を指摘する声もある。金融機関が高いレバレッジを利用した危うい経営を続けたことを、SOX法は防ぐことはできなかった。しかし、SOX法は「財務報告に関係する内部統制の整備状況を報告する」制度であり、「会社の経営を監督する」制度ではない。それがとりもなおさず、現行の財務報告の限界でもあり、米国の資本市場の制度群がカバーしていない範囲だ。
財務報告は会社の実態を映す鏡である。内部統制報告制度は、その鏡に歪みがないかをチェックする機能を有する。そもそもの実態が崩れていたとしたら、それは鏡を見た人が判断する領域だ。
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