製品やサービスのコモディティー化(汎用品化)が進み、ブランドの力で違いを作り出す重要性が高まっている。だが、国内企業には依然としてブランドマネジメントの苦手な会社が多い。日本のマーケティング研究の第一人者である早稲田大学商学部の恩蔵学部長がその理由を明らかにし、ブランドマネジメント実践のヒントを提示する。
私の専門であるマーケティングにおいて今、ブランドの重要性が非常に高まっています。ブランドのマネジメントが、マーケティングの中心になってきたと言っても過言ではありません。
ですが、マーケターがブランドに関心を持つようになったのは、実はわずか20年ほど前のこと。ブランドを資産と見る「ブランドエクイティ」という考え方が登場し、1988年頃に米国でそれをテーマとした研究大会が開かれました。
これを機にマーケティングの専門家の注目が集まり、ブランドの研究が一気に盛り上がりました。それでも、ブランドがマーケティングにおいて今日のような重要な地位を占めるようになるとは、当時は思いも寄らないことでしたね。
ブランドが注目され始めたのはわずか20年前
恩蔵 直人(おんぞう・なおと)氏
1959年生まれ。1982年早稲田大学商学部卒業。その後、同大学大学院商学研究科へ進学。同大学部商学部助教授などを経て、1996年同学部教授。2008年9月から同大学商学学術院長兼商学部長。主な著書に『競争優位のブランド戦略』(日本経済新聞社)、『マーケティング』(日経文庫)、『コモディティ化市場のマーケティング論理』(有斐閣)など。
ブランドエクイティという概念が台頭するまでは、経営大学院(ビジネスクール)などで使われているマーケティングの教科書でも、ブランドを大きく扱ってはいなかった。それが、研究の進展とともに徐々に扱いが大きくなっていったのです。
象徴的なのは、「近代マーケティングの父」と言われる米ノースウェスタン大学経営大学院のフィリップ・コトラー教授(関連記事「マーケター諸君、今がチャンスだ」)が執筆してきた教科書『マーケティング・マネジメント』の内容が様変わりしたことです。
1967年に初版が発行されたこの教科書は、経済学の分野で言えば、米マサチューセッツ工科大学名誉教授でノーベル経済学賞を受賞したポール・サミュエルソン氏の『経済学』に相当するマーケティングのテキストの決定版です。
米国では2008年春に第13版が出ましたが、1つ前の第12版(2005年)で大きな変化があった。まず、それまではコトラー教授が1人で執筆してきたのですが、第12版で初めて共同執筆者を迎え入れた。米ダートマス大学経営大学院のケビン・レーン・ケラー教授です。
ケラー教授は現在、世界で最も注目されているブランド研究者です。彼を共同執筆者にしたことに伴ってブランドの扱いも厚くなり、ブランドをタイトルに冠した章が2つも設けられました。そうすることで、マーケティングにおいてブランドの重要性が高まっている現実をきちんと反映したわけです。
製品やサービスで“差”を作り出す唯一の手段に
では、なぜ今、ブランドの重要性が高まっているのでしょうか。それは、製品やサービスのコモディティー化(汎用品化)が広がっているからです。
コモディティー化とは、企業間の技術の水準に差がなくなり、製品やサービスの機能や品質といった本質的な部分で違いを示すことが困難になっている現象を指します。
消費者の側からは、各企業の提供する製品やサービスに違いを見いだしにくくなっている。ですから、現実にモノが売れなくなっています。
「モノが売れなくなったのは市場が成熟したからだ」。よくこう言われますが、この説明は実態をきちんと反映しているとは言い難い。
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