世界に通じるモノ作り。本誌はこれまで高い技術と生産能力を持つ日本企業を多く描いてきた。その対象はトヨタ自動車やソニーといった大企業に限らない。規模が小さく、知名度が低くても、産業界に欠かせない製品や部品を作る中小企業が全国に数多くある。
このシリーズでは本誌の人気コラム「小さなトップランナー」から優れたモノ作りの現場を紹介した記事を連続で取り上げる。
(注)内容はすべて雑誌掲載時のものです。
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2007年4月30日号より
北海道の遠軽町で、世界に通用する高品質の楽器部材を作り出す。
半世紀にわたって磨いた加工技術を、6代目社長がさらに進化させた。
町を支える地場産業として、木材の新たな可能性を日々模索する。
(江村 英哲)
北海道の北東に広がるオホーツク海。湧別川を河口から20kmほど南にさかのぼると遠軽町がある。2005年の市町村合併で、近隣4町村が合併した人口約2万3000人の町だ。そこからさらに川沿いの国道を車で南西に30分ほど進むと、道の駅「まるせっぷ」の脇に、広々とした材木置き場と「北見木材」の看板が見えてくる。

まるせっぷの周辺は、合併前は丸瀬布町と呼ばれた。町を囲む森林の9割程度を国有林が占める、人口わずか2000人にも満たない山間の町。北見木材はそんな町に本社を置く日本一企業だ。国内シェア70%、世界シェア16%を誇る製品は、ピアノの音を美しく響かせる部材である「響板(きょうばん)」。半世紀以上の年月をかけて、北見木材はその品質を磨き続けてきた。
シェアの高さには理由がある。楽器製造大手のヤマハが北見木材に出資しており、取引額も大きいためだ。ピアノは、ぴんと張った弦を柔らかなハンマーで叩くことで音を出す。この音を増幅させ美しく響かせるのが響板だ。響板はピアノの音質に大きな影響を与える大切な部材と言える。
響板の樹種としてはアカエゾマツが好まれる。旧丸瀬布町周辺はアカエゾマツが豊富だった。そこで北見木材は古くから原木をヤマハに販売していた。ヤマハの技術指導を受けながら、やがて原木の加工までこなせる企業へと成長した。2006年9月期の売上高は20億500万円、経常利益は4500万円。今では「世界中のピアノの6台に1台は、当社の響板で音を響かせている」と廣瀬英雄社長は話す。
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