自治体以上にサービスの公益性を考え、お役所仕事、公共施設のイメージを一転させるサントリーパブリシティサービス。その人を生かす組織マネジメントの成功要因を紹介する。
めんどくさいことまでやる公共施設
ある公共施設での実話を紹介したい。
(1) 地元出身のプロの演奏家が地元中学校のオーケストラを教える。教え子たちは老人ホームを訪問し特訓の成果を披露。見慣れたのど自慢番組とは全く違った感動をおじいちゃん、おばあちゃんに持ってもらった。
(2) 日本の伝統芸能とはいえ、やや敷居の高い歌舞伎。その歌舞伎の大道具、小道具の動きなど舞台裏の様子までじっくり見てもらうことで、観客に親しみを感じてもらった。
(3) 長年捜し求めていた本だが、やはりこの図書館にもなかった。図書館コンシェルジュと呼ばれる女性に聞いてみると、このジャンルに強い近くの古書店にあるかもしれないという。ついにお目当ての本は見つかり、図書館に礼状を書くことにした。
(4) 同じ図書館へ。図書館コンシェルジュに美味しい蕎麦屋はと聞いてみると、彼女たちの手作りのグルメガイド・ファイルからいくつか紹介してもらった。自分たちが実際に足を運んでオススメできると感じたところしか載せてないという。私は思わず、これ売れるよと言った。
これらは、サントリーパブリシティサービス(以下、SPS)が管理する公共施設での利用者の体験談である。(1)と(2)は山口県の文化施設(シンフォニア岩国)、(3)と(4)は千代田区の図書館(千代田図書館)。いずれも、以前は自治体、もしくは自治体と関係の深い団体(財団等)が担っていた管理を、指定管理者という制度の導入を機に、SPS(千代田図書館はグループ構成企業の1つ)が手がけるようになった。
老人ホームへのアウトリーチでの演奏会の様子
(1)〜(4)とも、以前の自治体(関連団体)管理の時代にはなかったことである。読者の中にも公共施設で職員にムスっとした対応を受けた経験があるかもしれない。いわゆる“お役所仕事”と揶揄されてきた仕事とは、無愛想、無機質であり、通り一遍、変化に乏しいことを指した言葉である。
“お役所仕事”から脱皮しようと努力する自治体(関連団体)も多い。しかし、接遇研修、CS研修などを行ってはいるが、愛想をよくすることやCSアンケートをすることにとどまっている事例も多い。
そうしたことも大事だが、(1)〜(4)は愛想のよさやCS調査を超えたサービスである。
「うちはちょっと周りから見ると、“めんどくさい”と思われることもやっているんです」(SPSで公共ビジネスを担当する大村部長)との言葉は、SPSと自治体との違いをよく表している。
SPSの取り組みは利用者数やリピート率、顧客の声にも表れている。年間利用者数は、自治体管理の時代に比べて、シンフォニア岩国では約1.2倍、千代田図書館では3倍以上であり(※)、またSPSが手がける公共施設のCS調査の結果は平均4.25(5段階評価)である。
※注:開館時間、開館日数の変化の影響も大きい。また千代田図書館の場合、指定管理開始と同時にリニューアルをしているため来館者数にも影響している。
公共サービスのイノベーション
図書館コンシェルジュ手作りのグルメガイドのファイル
サイバーエージェントを紹介した前々回は、「想定外の環境変化への対応」をイノベーションという言葉で整理し、そのメカニズムについて考えた。
NPO法人(特定非営利活動法人)「育て上げ」ネットを紹介した前回は「誰も対応できていない課題」へ立ち向かう公益目的のイノベーションを紹介した。
今回のSPSは従来にないサービスを提供し、変化を仕掛ける、変化を創り出す事例という意味では先の2事例ともに共通する。SPSは公共の文化施設や図書館の従来のイメージを一転させたイノベーティブな取り組みと言えると思う。
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(株)野村総合研究所副主任研究員






